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『VA-11 Hall-A』ゲームが描き出す新しいホームドラマ【インディーゲームレビュー】

PC-9801シリーズを彷彿とさせるレトロなグラフィックのアドベンチャーゲーム『VA-11 Hall-A』。本作はベネズエラ人の若者二人が作った、ベネズエラの日常をモチーフとした、ゲームならではのホームドラマだった。


電動紙芝居とホームドラマ

テレビ黄金時代の1970年代、和田勉や山田太一といった異彩が集結し、さまざまな作品を輩出しつつ、独自のテレビドラマ論を展開していった。ポイントは「テレビ・スクリーンの小ささ」「家庭という視聴環境」「テレビの持つ時間制」「スタジオ演出」という制約の活用だ。それはまた、映画人からの「電動紙芝居」という揶揄を払拭し、独自の表現物を作り上げようとする挑戦でもあった。

そうした中から生まれてきたのがホームドラマだ。平成の国民的ドラマ『渡る世間は鬼ばかり』は好例で、中華料理店「幸楽」を中心に5つの家族の暮らしが描かれる。そこで描かれるのは「人間関係の気苦労さ」であり、市井の人々のたわいもない話だ。しかし、このたわいもなさが映画では表現できない、テレビドラマならではの魅力だったのである。今も昔も「家庭」は多くの人に興味のあるテーマだからだ。

ヴァルハラにはさまざまな客が訪れる。彼女は家族想いだが、姉との関係に悩むハッカーのアルマ。ジルの友人の一人だ

24時間の生活を生放送する「すとり〜みんぐチャン」。弾幕も日本語で再現されている。日本語版制作はプレイズムが担当しており、2017年末にリリース。ローカライズのクオリティも秀逸だ

ビジュアルノベルゲームは現代の電動紙芝居

この映画とテレビの関係は、そのまま一般ゲームとアドベンチャーゲーム(海外ではビジュアルノベルゲーム)にあてはまる。事実、Steamでは長く「ビジュアルノベルゲームは電動紙芝居」という評価が支配的で、リリース数も限られていた。ただし、状況は徐々に変わりつつある。今回取り上げる『VA-11 Hall-A』もその一つで、2016年にリリースされ、全世界で高い評価を受けた。

プレイヤーは荒廃した世界にあるバー「VA-11 HALL-A(ヴァルハラ)」のバーテンダー・ジルとして、さまざまな客と交流していく。通常のビジュアルノベルゲームと異なり、本作では選択肢がカクテルの制作になる。客のオーダーや好みから最適と思われる一品を作り上げることで、ストーリーが分岐していくのだ。カクテルは架空のものばかりで、レシピもあるため、アルコールの知識がなくても楽しめる。

ユニークなのは、カクテルづくりの画面が微妙にイケてないことだ。氷の有無や熟成度などをきちんと指定する必要があり、うっかりすると間違いやすい。しかし、だからこそ手元の操作に集中する必要がある。これによって、クリックだけで進めていける会話パートとの対比が生まれ、本作ならではのリズム感を生み出しているのだ。UI/UXのデザインには大局観が必要なことが、本作をプレイするとわかるだろう。

バーテンダーのギル(左)とオーナーのディナ(右)。時にはNPC同士の掛け合いでストーリーが進んでいく

本作の大きな特徴であるカクテル制作画面。客の言動から好みを推察し、レシピを見ながら原酒をシェーカーに入れて、架空のカクテルを作っていく

非日常の世界における日常風景を描くには

もっとも、本作で高く評価されているのが、客や従業員との会話を通して醸し出される世界観だ。本作はディストピアものの一種で、客は権力の支配から逃れるために店に訪れる。これに対してジルはバーテンダーとして客の話を聞き、職業意識にもとづいてカクテルを出していく。本作では世界を救うスーパーマンは登場しない。非日常の世界における日常的な会話劇が続いていくのだ。

にもかかわらず、本作の世界観にリアリティが感じられるのは、これが開発者をとりまく日常的な風景だからだ。開発元のSukeban Gamesはベネズエラ出身の2人の若者によるユニットで、テロや暴力が身近な本作の世界観は、社会情勢や彼らの人生が色濃く反映されている(詳細はIGN JAPANのインタビューに詳しい)。彼らの日常は我々の非日常であり、だからこそ世界中の人々に刺激を与えたのだ。

つまり本作はベネズエラ人がゲームで描いたホームドラマであり、だからこそ(電動紙芝居と揶揄されがちな)ビジュアルノベルゲームという形式が最適だった。もっとも、こうした日常的なテーマを描く上で、本ジャンルが最適であることは、日本人なら当たり前のことだ。その意味を欧米圏で知らしめたことに、本作の意義がある。ようやく世界が日本に追いついてきたのだ。

ジルの部屋は日本のアパートがモチーフだ。ヴァルハラも新宿ゴールデン街のバーがモデルになっている。いずれも写真などの資料をもとに作られた

日本のホームドラマは世界に羽ばたけるか

このことは裏返せば、日本人の「たわいもない話」が世界で思わぬヒットを生む可能性を秘めている、ということでもある。漫画「スラムダンク」が中国でヒットした際、多くの中国人は劇中の学園生活をファンタジーと捉えた。中国には部活動という概念がないからだ。街中に自動販売機が存在するのも、電車がダイヤ通りに運行するのも、多くの訪日外国人には新鮮に映る。他にもさまざまな例が挙げられるだろう。

もっとも、日本のデベロッパーの多くは最初から海外市場への挑戦を諦めているようにも見える。我々の目の前には言語の壁が存在する。海外展開には相応のローカライズ費用が発生するからだ。ただし、だからこそ日本には、手つかずの良作が大量に眠っているともいえる。そして、その壁を越えていくことこそが、大手にはできない、インディーゲームならではの使命ではないだろうか。

©Sukeban Games. All Rights Reserved. ©Active Gaming Media Inc. All Rights Reserved.

■参考
シリーズ 初期“テレビ論”を再読する【第4回】ドラマ論~“お茶の間”をめぐる葛藤~
https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/report/2013_12/20131204.pdf

■関連リンク
Steam『VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action』
https://store.steampowered.com/app/447530/VA11_HallA_Cyberpunk_Bartender_Action/?l=japanese
開発者インタビュー:「VA-11 Hall-A」インタビュー、ベネズエラの日常と非日常の中で生まれたパーソナルなアドベンチャー
http://jp.ign.com/vallhalla/17898/interview/va-11-hall-a
Playism『VA-11 Hall-A ヴァルハラ 日本語版』公式ページ
http://publishing.playism.jp/va11halla
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