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『Her Story』〜今や絶滅危惧種となった「コンストラクションゲーム」の正統進化【インディーゲームレビュー】

 

もう一つの「コンストラクションゲーム

ゲームの中には「コンストラクションゲーム」と呼ばれるジャンルがある。一般的には「コンピュータ上で何らかの"価値"を築き上げるゲーム」とされ、『シムシティ』などの例があげられることが多い。しかし、より視野を広げてみると、「プレイヤーに対してゲームを円滑に進めるために、メモなどを通して能動的に情報の整理を行わせる必要があるゲーム」全般もまた、コンストラクションゲームだといえる。なぜなら、クリア後に自分だけの「資料集」が形作られるからだ。

この観点で捉えると、黎明期のRPGやAVGはほとんどがコンストラクションゲームの要素を備えていた。『Wizardry』で方眼紙に手描きのマップを作ったり、『ドルアーガの塔』で自分だけの攻略メモを創り上げたり……といった具合だ。もともとゲームの楽しさには、こうした部分も含まれていた。今や絶滅危惧種のようだが、自分でデジタルなマップを作りつつ進めていく『世界樹の迷宮』シリーズなどは、まだまだ根強い人気を誇っている。

遊び手にメモを求めるゲームデザイン

今回取り上げる『Her Story』もまた、そうしたコンストラクションゲームの楽しさを現代に伝えるユニークなタイトルだ。ゲームは『サイレントヒル シャッタードメモリーズ』などを手がけたサム・バーローによる推理アドベンチャーで、Bafta、IGF、GDC、The Game Awards 2015など、数々のアワードを総なめにしてきた。言語の壁から日本での知名度は今ひとつだったが、2016年11月に満を持して日本語版が登場し、一気に身近になった。

1994年の事件記録ということで、Windows3.1ライクな画面デザインになっている。アンチグレアのオンオフまで選べるこだわりようだ(スクリーンショットでは「オン」を選択)

ゲームの目的は1994年のイギリスで発生した男性の失踪事件を究明することだ。プレイヤーは警察の端末を操作し、7回にわたる容疑者への事情聴取映像を見ながら推理していく。もっとも、動画は全部で232本のミニクリップに分割されており、日付や時系列でソートすることができない。幸い動画には日本語の字幕がついており、検索エンジンでキーワード検索できるので、手がかりを元に単語を推測しながら動画の内容をチェックしていくことになる。

「口論」で検索すると10個の動画ファイルがヒットしたが、5個までしか表示できない。残りの動画は別のキーワードで検索するか、絞り込み検索を駆使する必要がある

ナラティブデザインの教科書的ゲーム

もっとも旧式の端末というだけあって、検索した動画クリップは画面上に5本までしか表示させることができない。そのため、プレイヤーはキーワードを元に動画を検索し(複数のキーワードで絞り込み検索もできる)、そこから得られた情報をメモしていき、自ら時系列でソートするなどして、自分の手で動画リストを作成していく必要がある。ちなみに筆者はExcelで表を作った。このように、微妙な操作性の悪さがゲームのおもしろさに貢献している、珍しいタイプのゲームだ。

多くのゲームと同様に、本作も入力と出力のループ構造で快感が増幅していくようにデザインされており、本作の快感は3種類に分けられる。
第1に、手がかりを元にキーワードを推理し、新しい動画クリップを検索していく楽しみ。第2に、得られた動画クリップから事件の全貌を推理する楽しみ。そして、クリア後に残された未解決の謎について、自分で想像を巡らせる楽しみだ。ゲームを進めながら作成した膨大なメモ類が、想像を膨らませる道しるべになってくれるだろう。

日本語版作成はアクティブゲーミングメディアが担当した。「Steam」に加えて、同社のゲーム配信サイト「Playism」でも販売中だ

それにしても本作のどこに、わざわざ「メモを取ってまで進めたい」と思わせる力が隠されているのだろうか。その答えとなるのが物語体験であり、ナラティブの力だ。物語のかけらをプレイヤーに収集させ、ジグソーパズルのように連結させることで想像力を喚起。事件の全体像を知りたいと思わせる、まさにセオリー通りの構成になっている。すべてを語りすぎず、余韻を残して終わる結末も同様だ。こうした尖ったゲームが登場してくる点に、インディーゲームの力強さが感じられる。

(C) Sam Barlow 2015

■関連リンク
『Her Story』
http://www.herstorygame.com/
サム・バーロー(英語版wikipedia)
https://en.wikipedia.org/wiki/Sam_Barlow_(game_designer)

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