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『INSIDE』少年は逃げる、でもどこに向かって……?【インディーゲームレビュー 第1回】


2010年にリリースされたアクションパズル『LIMBO』はゲーム業界を震撼させた。HD画質になり、フォトリアルな映像表現を求める業界の風潮に反旗を翻すかのように、モノトーンの地味なグラフィックがひときわ目立ったからだ。その一方で煉獄をテーマとした世界観、アクション要素とパズル要素が適度にブレンドされた良質なゲーム内容、ナラティブを意識したレベルデザインなどで世界的なヒットを記録し、日本でも多くのプレイヤーに愛されるタイトルとなった。

この『LIMBO』を開発したデンマークのインディーゲームデベロッパー、Playdeadの最新作が今夏にSteamでリリースされた『INSIDE』だ。ゲーム内容は『LIMBO』と同じプラットフォーマー(※)パズルアクションで、パズルを解きながら右へ、右へと進んでいく。シンプルなゲームスタイルや、色彩を最小限に抑えたアートスタイル、テキストが一切表示されないにもかかわらず、濃密な物語体験が得られる点など、『LIMBO』との共通点は多い。スクリーンショットのセンスに共感できるなら、確実に楽しめる一作になるだろう。

基本操作も『LIMBO』と同じで、プレイヤーにできるのは上下左右への移動とジャンプ・状況に応じたアクションのみ。物を動かして足場にする、ロープをつかんで昇降する、スイッチを押して仕掛けを作動させるなど、さまざまなパズルをときつつステージを先に進んでいく。その一方で『LIMBO』と異なり、グラフィックは完全2Dから疑似3Dになり、場所に応じてカメラが移動するようになった。ゲームメカニクスには影響を及ぼさないものの、これによって世界が、より広がりを持って感じられるようになった。

世界から逃げつつ、深淵をめざす矛盾

本作を忘れがたい物にしているのが、その独特の世界観だ。『LIMBO』では煉獄というテーマがモノトーンのグラフィックとマッチしていたが、本作は支配する者とされる者に分断された、全体主義的なディストピアが舞台になっている。一握りの特権階級が、思考を停止させられた大多数の「ドレイ」を支配する、冷戦下の社会主義国家を彷彿とさせる世界だ。主人公の少年は収容所とおぼしき施設から脱走し、逃走を続けていく。見つかれば問答無用で即死する運命にあり、実際に無数の死を繰り返しながらゲームは進んでいく。

興味深いことに、少年は収容所から逃走するにもかかわらず、いつの間にかプロジェクトの中枢に深くはまり込んでいく。タイトルの『INSIDE』どおり、外界をめざして仕掛けをクリアしていくたびに、知らず知らずのうちに蟻地獄にからめとられていくというわけだ。逃げることが根本的な解決法にはならない、ということなのだろうか。グラフィックもモノトーン色が薄れ、いくぶん社会の営みを感じさせるものになっており、これが社会の絶望感を浮き上がらせている。

それにしても、本作は何を意味しているのだろう。『LIMBO』と同じく、『INSIDE』もクリア後に何か明確な答えを提示するわけではない。思わせぶりな世界観に代表されるように、もやもやとしたクリア感が残る「雰囲気ゲー」だ。そのぶんプレイヤー一人ひとりに対して、自由な解釈の余地を残している。それこそが本作の最大の魅力だろう。本稿でも筆者の勝手な感想を述べることを許してほしい。

欧州の世相を反映した世界観

2016年はEU全土をゆるがした難民問題から始まり、イギリスのEU脱退、アメリカのトランプ次期大統領選出と、冷戦後の世界秩序に対する壮大な意義申し立てがおこなわれた、歴史的な一年となった。たしかに行きすぎたグローバリゼーションは社会の二極化を進行させたが、ナショナリズムを追い求めた結果、多様性を失った社会が行き着く先は、本作のようなディストピアだ。特にデンマークは第二次世界大戦中、ナチスドイツに蹂躙された歴史を持つ。『INSIDE』もまた、こうした世相を見事に切り取った……、という解釈はうがちすぎかもしれないが、タイムリーなタイトルになったのは間違いないだろう。

この思いを強くしたのが、脳波コントロール器機でドレイを操作し、パズルを解くシーンだ。ここでは主人公はドレイになる運命から逃れようとしつつも、ドレイを操作して運命を切り開くという、支配する者、される者の逆転関係がみられる(この仕掛けはゲーム中で繰り返し登場し、本作の代表的なパズルになっている)。差別反対を訴えつつ、自分自身もまた特権階級の立ち場を享受している……。そうした居心地の悪さをゲームで表現しようとしているようにも感じさせる。

本作で感じられる数少ないストレス点は、『LIMBO』に比べてアクション要素がシビアな点だ。パズルの解き方が判明しているにもかかわらず、アクションがシビアで先に進めない点がしばしば存在し、いらだちを感じさせた。何度も同じミスを繰り返すうちに、次第に判定がゆるめになるといった、作り手側の配慮があっても良いのではないか。アクションの達成感を味あわせたいなら、別のゲームデザインがあるはずだからだ。


最後に簡単に所見をまとめよう。日本のゲームクリエイターはおしなべて、本作のように「テキストが一切表示されない、にもかかかわらず濃密な物語体験が得られる」ゲームを作ることが苦手な傾向がみられる(『ゼビウス』などの例外もあるが)。漢字・ひらがな・カタカナ・ローマ字と、世界にもまれな「書き文字文化」を誇る国だからか、とにかくテキストに頼りがちなのだ。そんな中、本作のナラティブデザインはひときわ光っている。ゲームのセンスを磨くためにも、ぜひ本作のプレイをオススメしたい。

(※)プラットフォーマー:『スーパーマリオブラザーズ』に代表される、プラットフォーム(台、足場)をジャンプして進んでいくようなタイプのゲームジャンル。2Dゲームだけでなく、3Dゲームでもさまざまなプラットフォーマーが存在する。

(C) 2016 Playdead. All rights reserved.

■関連リンク
Playdead
http://www.playdead.com/
『INSIDE』
http://www.playdead.com/games/inside/
Steam『INSIDE』のページ
http://store.steampowered.com/app/304430/

【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー