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音楽も実況も裏方、でもだからこそプレイヤーのゲーム体験を豊かにできる【FFXIVサウンドディレクター・祖堅正慶×ゲームキャスター・StanSmith】

ゲームキャスターのStanSmithがいま気になる人に会いに行き、仕事や好きなことについてとことん語り合う「StanSmithが会いに行く」。vol.1はスクウェア・エニックスで『ファイナルファンタジーXIV』 のサウンドディレクターとして大活躍している祖堅正慶さんを訪ねた。 

祖堅正慶


株式会社スクウェア・エニックス所属のサウンドディレクター/サウンドデザイナー/コンポーザー。
自称・ニー祖堅。アーケードゲームのサウンドクリエイターを経て、1999年に株式会社スクウェア(現スクウェア・エニックス)に入社。サウンドディレクターを担当する『ファイナルファンタジーXIV』は、「ビデオゲームで最も多くのオリジナル・サウンドトラックを持つタイトル」としてギネス世界記録™に認定された。2014年には同作公式ロックバンド・THE PRIMALSを結成し、北米・欧州・日本でのツアーイベントに出演。ワールドワイドに活躍の場を広げている。父親は元NHK交響楽団首席トランペット奏者で琉球交響楽団代表の祖堅方正氏で、交響組曲『ドラゴンクエストⅠ・Ⅱ』にも参加している(2013年に他界)。
【代表作品等】
『ファイナルファンタジーXIV』、『Lord of Vermilion』シリーズ、『ナナシ ノ ゲエム』シリーズ、『聖剣伝説4』、『MARIO SPORTS MIX』、『マリオバスケ3on3』、『ドラッグ オン ドラグーン2』、『ドラッグ オン ドラグーン3』など
公式Twitter:@SOKENsquareenix

StanSmith


フリーランスのゲームキャスター。
国内のeSports大会やゲームイベントの実況・MCを中心に活躍しており、世界大会の日本語実況などの経験も豊富。もともとはFPSMOBA・スポーツのジャンルで国内外の大会に出場していたトッププレイヤーでもある。
ただのアナウンサーや実況者ではなく、選手としての大会経験とゲームへの深い理解を持つことを一番の武器としている。ゲーム初心者から上級者まであらゆる視聴者が楽しめるように言葉巧みに、必要なときには噛み砕いてゲームや試合の魅力を伝える能力が高く評価されている。
公式Twitter:@StanSmith_jp


主役はプレイヤー、選手、ファン


StanSmith:
今回の「StanSmithが会いに行く」という企画、最初に誰と対談したいかと考えたとき、何度か会っているけどしっかり話したことのない人がいいなと思ったんです。そこで、『ファイナルファンタジーXIV』(以下:FFXIV)や『オーバーウォッチ』(以下:OW)の仕事でご一緒した縁もあったので、祖堅さんにお願いすることにしました。

祖堅:
超嬉しいです。StanSmithさんが実況している動画はめちゃくちゃ観ていますからね(笑)。

StanSmith:
最初にお会いしたのは「再戦!スクエニ vs SIE 『オーバーウォッチ』でガチンコ全面対決!!」(*1)のときでしたよね。僕が試合の実況で、祖堅さんがスクウェア・エニックスチームでプレイされていました。

2回目が「ファイナルファンタジーXIV ファンフェスティバル2016 in TOKYO」(*2)で、僕はザ・フィースト(*3)の実況をしていました。終わったあと、祖堅さんが「お疲れさま、すごくよかった!」と声をかけてくださったことをとてもよく覚えています。

*1 再戦!スクエニ vs SIE 『オーバーウォッチ』でガチンコ全面対決!!
2016年7月に開催されたPlayStation®祭のイベントの1つ。スクウェア・エニックスチームには代表取締役社長の松田洋祐さん、SIEチームにはジャパンアジアプレジデントの盛田厚さんが参戦。過去の対戦(同年2月の『コール オブ デューティ ブラックオプスIII』にて)ではスクウェア・エニックスチームが勝利し、このときも勝利を重ねた。同年9月の最終決戦(OW)ではSIEチームが初勝利を飾った。

*2 ファイナルファンタジーXIV ファンフェスティバル2016 in TOKYO
2016年12月に開催されたFFXIVのファンイベント。最新拡張パッケージ『紅蓮のリベレーター』新情報の発表、クイズやコスプレコンテストなどさまざまなステージやライブが行なわれた。

*3 ザ・フィースト
FFXIVに2016年3月に実装された対人戦バトルコンテンツ(PvP)。レーティングや階級、ランキングがあり、上位入賞者にはシーズン報酬が与えられる。


祖堅:
ザ・フィーストが盛り上がったのは、間違いなくStanSmithさんの実況のおかげでした。僕らもそうですし、観戦していた方の多くもそうだと思いますが、展開が早すぎて理解できない試合も多い中、的確な実況でどういう状況なのか伝えてくれるので、「すごいことが行なわれている」ということが分かるんです。「この人、すごいなー!」と思いながら実況を聴いていました(笑)。

僕はステージと参加者が見渡せる位置で観ていて、ほとんど全員が中腰で拳を振り上げて「いけー!」と叫ぶ姿を眺めていました。ゲームのフェスでそんなに盛り上がることは多くないですよね。完全に実況のパワーです。

StanSmith:
ありがとうございます。始まる前はあまり観客が集まっていなくて、それが悔しかったんです。なんとか盛り上げようと必死にやった結果ですね。実況は選手や試合に注目してもらうための裏方なので、うまく盛り立てることができてよかったです。

それにしても、祖堅さん始めスクウェア・エニックスの方は本当にゲームが好きですよね。東京ゲームショウでの「スクエニ vs SIE」も、出場者の皆さんはとても盛り上がっていましたし、裏方のスタッフも声を上げて応援していたのが印象的でした。

クリエイターに限らず、ゲームが好きな人はもっとオフラインの場に出ていって、自分が持つゲームへの熱を周りに広げていってほしいですね。そうすればゲームにあまり興味がない人にも熱が伝わっていくと思います。

祖堅:
日本が独特なのか分かりませんが、ゲームに興味がない人の視線の冷たさはときどき感じます。StanSmithさんの実況でそれを変えていってほしいです(笑)。海外ではゲームが最先端のテクノロジーとアートが組み合わさった存在として受け入れられているところが多く、また文化的な違いもあって、よく分からなくてもとりあえず盛り上がることができます。日本でもそういう雰囲気が醸成されるといいですね。

StanSmith:
ゲーマーはオフラインの会場でイベントやライブがあっても、ただ聴いているだけのことが多いですよね。ところが、FFXIVのファンフェスのライブは全員が大騒ぎしていて、ちょっとしたカルチャーショックを受けました。「何なんだこれは、ゲームのイベントだよな?」と。

しかも、そこで流れているのはライブミュージックではなくゲーム音楽です。ゲーム音楽のライブでこんなに盛り上がれるのかと、本当に驚きました。

祖堅:
最後列の人まで飛び跳ねていましたね(笑)。日本のゲーマーは体を使って楽しさを表現することをあまりしないと思いますが、静かにライブを聴きながらもTwitterでは「うおー!」ってツイートしているはずです。外から見て分かりづらくても、内側ではものすごい熱量を抱えてくれているんですよ。

あのライブのときも、メンバーにはそのことを伝えていました。「もしかしたらお客さんは全然動かず、ただ見ているだけかもしれない。でも、心の中ではめちゃくちゃ盛り上がっているはずだから安心して」と。ところが、いざ始まってみたら動きまくりです。あとでメンバーから話が違うじゃないかと言われました(笑)。

FFXIVはコンテンツに対して音楽を作っているので、敵の強力な技、苦労するポイント、仲間と難所を乗り越えた瞬間、やっと得た勝利といった経験をするとき、誰もが同じ音楽を聴くことになります。仲間と一丸となって強大な敵を倒しに行ったというゲーム体験には音楽も含まれているわけですよ。その音楽をライブで聴くことで、ゲームをプレイしたことのある人だけが持つ感情がどっとあふれてきたんでしょう。

実況はあくまで裏方とおっしゃいましたが、それは僕がバンドのメンバーに口を酸っぱくして言っていたことと同じです。あのライブは特殊でした。普通ならステージに立って演奏して歌うアーティスト、つまり僕らが主役です。でも、今回は参加者や皆さんのゲーム体験が主役だったんです。僕らが主役だと履き違えてはいけませんでした。

それは「みんな聴いてくれ!」という姿勢ではダメだということです。うるさいほどそう言い続けていましたね。メンバーはそれを深く理解してくれたので、ああいったすばらしいライブにできたんだと思います。

プレイヤーに最大限のリスペクトを


StanSmith:
FFXIVのスタッフの皆さんは、特にプロデューサー兼ディレクターの吉田直樹さん(*4)がまさにそうですよね。常々プレイヤーが主役だとおっしゃっていますし、行動にも表れています。実は吉田さんと初めてお仕事をしたとき、自分の仕事観が一新される出来事がありました。

昔、「eスポーツMaX」(*5)の収録でウルヴズジェイル(*6)を特集したとき、実況で出演しました。当時はFFXIVをプレイしていたとはいえ、そこまで深い知識がなく、なんとなく雰囲気で実況をしていたんですよ。

収録の際、PCのトラブルがありました。すると、吉田さんが「なぜこんなことが起きたのか、プレイヤーを待たせないで」と真剣に的確に指示をし始めました。プレイヤーに嫌な経験をしてほしくないと心から思っていたからこその行動だったと思います。

その姿を見て、自分もいまの姿勢で仕事をしていてはいけないと強く思わされました。「このくらいの知識があればいいだろう」と妥協していた部分があったんです。その後、ファンフェスでザ・フィーストを実況することが決まり、真剣にゲームをプレイしました。そうしないとプレイヤーに満足してもらえず、吉田さんやスタッフの皆さんにも失礼だと気づいたからです。

*4 吉田直樹
FFXIVのプロデューサー兼ディレクター。旧FFXIVの失敗を認め、新生FFXIVを作り上げた最大の立役者。アップデートのたびにゲームや生放送で名前が叫ばれるなど、よくネタにされるが、プレイヤーに愛されているからこそ。

*5 eスポーツMaX
TOKYO MXで放送されている、eSportsに特化したテレビ番組。大会やイベントの様子を紹介したり、ゲームの解説を行なったりしている。番組でイベントを主催することもある。

*6 ウルヴズジェイル
FFXIV内のPvP専用エリア。かつてはチーム対戦型PvPをウルヴズジェイルと呼んでいたが、ザ・フィーストの実装後はザ・フォールドと改称され、両者を合わせてウルヴズジェイルと呼ぶようになった。


祖堅:
僕も数々のゲーム制作に携わってきました。ですが、FFXIVほどプレイヤーに正直に向き合って作っていかないといけないゲームはありませんでした。それはパッケージを出したら制作が終わるタイプのゲームではないというのが大きいですね。

あと、一度失敗していることも無視できません。「失敗しました」と宣言してやり直すことができたのは、吉田の勇気の賜物です。その原動力はプレイヤーです。プレイヤーに最大限のリスペクトをもったうえで制作しているのがFFXIVチームなんです。

StanSmith:
ファンフェスでもう1つ衝撃的だったのが、プレイヤーがゲームを作っているプロデューサーやスタッフにサインを求めていたことです。

祖堅:
それは僕も衝撃でした(笑)。

StanSmith:
スタッフがプレイヤーの方向を向いて、お互いに理解し合い、いい距離感でコミュニケーションできているからですよね。「FFXIVプロデューサーレターLIVE」(*7)で吉田さんがプレイヤーと直接的にコミュニケーションしているとはいえ、プレイヤーが普段あまり表に出てこない開発陣すらも知っているということに驚きましたね。一緒に仕事をしている僕ですら存じ上げない方を、プレイヤーはちゃんと知っているんですよ。

*7 FFXIVプロデューサーレターLIVE
2011年10月から続くネット番組。吉田さんが出演し、FFXIVのプレイヤーから寄せられたさまざまな質問に答えていく。開発陣とプレイヤーの距離の近さが好評。


祖堅:
「FFXIVプロデューサーレターLIVE」を始めた当初、海外ではこのようなコンテンツは当たり前に行なわれていましたが、国内ではまだまだ珍しいという状況でした。しかし、吉田がプレイヤーにダイレクトに情報を届けたいという強い思いを持っていて、なかば強引に進めたんです。

しかし、我々には生放送の経験がなく、機材をどうしたらいいのかすら分かりませんでした。国内でやっている人も会社もないので、すべて自前で考えて用意して、わけも分からない状況で始めました。そのときの関係者の一体感がプレイヤーに伝わり、現在に続いているのかもしれません。

いまでは社内にも生放送の文化が浸透し、スタジオも設置されました。実は、当時は吉田の開発部屋に機材を持ち込んでむりやり配信していたんですよ。配信画面では広々としているように見えますが、出演している吉田の1メートル手前には僕らと機材がひしめき合っています(笑)。いまもそっちで配信するときは当時の方法を踏襲していますね。

ゲーム音楽はプレイヤーに気づかれずに進化する


StanSmith:
祖堅さんといえばFFXIVでギネス記録(*8)を持つサウンドディレクターです。僕はFFXIVの夜の音楽がとても好きなんですが、そもそも自分がゲーム音楽を意識するようになったのは『ファイナルファンタジータクティクス』からなんですよ。いまでもサントラを聴いていますね。

*8 ギネス記録
384曲(2016年11月1日時点)のBGMを収録したことでFFXIVは「ビデオゲームで最も多くのオリジナル・サウンドトラックを持つタイトル」としてギネス記録に認定された。なお、6月20日発売の拡張パッケージ『ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター』などにより、すでに50曲以上更新されているという。


祖堅:
そうなんですね! 当時と比べれば、ゲーム音楽の制作環境はずいぶんと変わりました。生音が出せなかったスーパーファミコン以前と、出せるようになったハードウェア以降では、出せる音も違えば表現方法も異なります。

いまのゲームは、感情に訴えるシーンでは音楽、効果音、ボイスをフルスクラッチで作ることができます。環境音を完全に再現できるだけでなく、その上にBGMを乗せた映画的表現も可能です。

それができなかった時代は、楽曲のメロディを変えたり強調したりして喜怒哀楽を表現していました。また、環境音を鳴らすことができなかったので、砂漠のシーンならアラビアンなBGMを流すことで、プレイヤーに砂漠をイメージしてもらう工夫が必要でした。いまなら砂漠の環境音を流せばいいので、BGMを使わない選択肢もありえます。

StanSmith:
家庭用ゲーム機の進化もありますが、スマホもゲームを遊ぶハードウェアとして当たり前になっていますよね。スマホでも音楽の作り方は違うんでしょうか。

祖堅:
かなり違いますね。家庭用ゲーム機だとテレビやヘッドホンなどで能動的に音を聞いてもらうことができるので、いろいろなアイデアを用いて音楽を作れます。しかし、スマホの場合だと電車でプレイするときなど、そもそも音を聞いてもらえないことも多いですよね。さらに本体のスピーカーで再生できる帯域が狭いので、音が持つ情報も少なくなります。

そうした状況において音でプレイヤーにゲーム内の情報を与えるには、リアルな音ではなく記号的なお約束の音を使うのが有効なこともありますね。ただ、スーパーファミコンの時代と同じような作り方かというと、そうではありません。

StanSmith:
クリエイターとしてはハードウェアの進化や変化に追いついていかないといけませんよね。つまり、前例がないような状態がずっと続いていくわけです。そういう状況で、祖堅さんはどういった考え方で音楽を作っているんですか?

祖堅:
受け身で作るとトレンドに合わせようとしてしまいます。ですが、これだとゲーム音楽の進化は止まります。なので、何か1つでもアイデアを組み込んで前に進んでいこうという気持ちが強いですね。スクエニ自体がそういう社風ですし。スマホでも、サウンドで何か新しいことができないかと模索しています。

例えば、とあるゲームで悲しいイベントのシーンがあるとしましょう。すると、メロディは悲しい感じにしたほうがいいですよね。それをすべて人がイベントシーンに合わせてフルスクラッチで作るとけっこうな作業になりますが、いまはメロディを自動的に悲しい感じに再構築するプログラムがあるんです。

ただ、プレイヤーがその自動生成を「すごい!」と感じるかというと、そうではありません。プレイ中には自動生成かどうかなんて分かりませんし、むしろゲームの裏側に気づかないこと、メロディの変化を自然に受け取れることが進化だと言えます。

環境音にしてもそうです。写実的なゲームではリアルな環境音が鳴っていますが、リアルであるがゆえにプレイヤーが技術的な進化を感じにくくなっています。でも、制作側が狙っているのはそこなので、聞こえ方としてはそれがベストです。とはいえ、実はとんでもなく高度な技術が使われていて、だからこそ自然にリアルに聞こえていることは知っておいてもらえると嬉しいですね。

StanSmith:
これからVR含めもっとハードウェアが進化していくと思いますが、ゲーム音楽はどのように進化していくと考えていますか?

祖堅:
いま以上に自然なものになっていくと思います。AIのような高度なテクノロジーがサウンドにも導入されることで、音楽によってより細かい感情表現を呼び起こすことができるようになるはずです。そうなると、強烈なインパクトのある音楽というよりは、そのへんにいる生き物のようなものになるでしょうね。

現状はシーンごとに決まった音楽を作るしかありません。ですが、シーンとシーンをよりシームレスに繋ぐことができるようになると思っています。バトルが始まったらバトルBGMが流れて、バトルが終わったらBGMも終わってフィールドBGMがまた始まる、というのではなく、いつの間にかバトルBGMに、いつの間にかフィールドBGMになっているという具合です。

フェードアウトとフェードインを重ねるクロスフェードではなく、例えばオーケストラの一団が延々と演奏している感じですかね。基礎部分ではシステムができているので、あとはどう活用するかという段階になりつつあります。

ただ、制作側はベストな機材で音を作っていますが、すべてのプレイヤーにベストな音を聴くための音響設備を買ってもらうわけにはいきません。いまでさえ、5.1chや7.1chといった環境でゲームができるプレイヤーは限られているでしょう。「お金はかかりますが、こういう環境なら最高の音でプレイできますよ」というのは、あくまで制作側の都合でしかないわけですよ。

ですので、制作側の進化と並行して、手軽に高品質の音を再生できるハードウェアも出てきてほしいですね。そうでないと多くのプレイヤーが音の進化を充分に堪能できません。

ゲームの場合、音が持つ情報によってゲーム体験の質が大きく左右されます。スピーカーなりヘッドホンなり、そういうハードウェアの需要は絶対にあるはずです! 音響メーカーの方、ぜひご検討をよろしくお願いします(笑)。

音楽は人の感情を動かす道具


祖堅:
ところで、僕はゲームをプレイしているとサウンドの仕組みが気になってきます。例えば、最近のRPGだとNPCとの会話中にプレイヤーが自由なタイミングでイベントを起こせるゲームがありますよね。そうなると会話が中断して、イベントが進行します。

で、終わって戻ってきたら、NPCが「何の話だっけ?」「そうだ、あの話だ。それでね……」という調子で、中断したところから自然と会話を再開するんです。人間が会話しているなら当たり前のことですが、ゲームに組み込むとなると非常に難しいんですよ。

これを実現するために、いつイベントの割り込みが発生するのか、一時キャッシュにどこまで何を記憶しておくか、復帰したときはどの文節やどういう言葉から再開したらいいのか、ということをリアルタイムで取捨選択しているシステムがあります。サウンドの再生機構としてはとても複雑です。

ゲーム内でそうした自然な会話に遭遇すると、どんな仕組みがそれを成立させているのか、いろんな条件でイベントを発生させて調べてみることがあります(笑)。

OWもサウンド的に面白い部分があります。広い場所だと音は拡散していきますが、狭い場所――例えば小部屋に入ると反響します。その反響の度合いをリアルタイムに生成しているのか、それとも場所ごとに焼き込みでリバーブ値(*9)をあらかじめ決めているのか、知りたくなりませんか?

調べてみた結果、ヒーローの足音にリバーブが反映されることが分かったので、カスタムゲームであちこちを歩いて検証してみました。鑑識結果によると、リアルタイム処理だと思われます。これがなぜPlayStation4の性能で可能なのかと考えると、RPGに比べるとマップが狭いので、そういう処理をするためのメモリを確保できるんでしょうね。

FFXIVの場合はその分のメモリを割り当てられないくらいテクスチャやマップの起伏の情報があるので、いまのところ焼き込むしかありません。

*9 リバーブ値
リバーブ(反響、残響)の仕方を決定する数値。


StanSmith:
たしかに、周りにビルがあると爆発音が反響して聞こえてきますよね。昔、別のFPSをプレイしていたとき、薬莢がカランカランと転がる音でなんとなく移動した方向が分かる気がしたんです。さすがに試合中の興奮した状態では聞き取れませんでしたが(笑)、訓練すれば試合でも利用できるかもしれませんね。サウンドシステムを把握することで強くなれると。

祖堅:
ちゃんと聞けば分かるはずです。OWですとリーパーは分かりやすいでしょう。シャドウ・ステップ(*10)で移動するときに声を出しているのは、どこに移動したか相手チームからも分かるようにするための、公平性を期すためのうまい方法ですよね。

あと、残り時間がなくなってくるとハリーアップのBGMが鳴りますが、これも最後のチャンスを掴むためにみんなで一丸となるのに必要です。ラスト1回でも逆転が可能なので、音楽の影響は大きいと思いますね。人の感情を動かす道具としては、音楽が最強です。

*10 リーパーのシャドウ・ステップ
OWで使用できるヒーローの1人。シャドウ・ステップは移動スキルで、ある地点から別の地点まで無音で瞬間移動できる。その際に「移動する」「影から光へ」など声を発するため、相手チームからもある程度移動先が把握できるようになっている。そのせいで着地と同時に蜂の巣にされることもしばしば。


StanSmith:
音楽でチームを勝利に導くルシオ(*11)がまさにそんなヒーローですよね。祖堅さんとしてはルシオというキャラクターはどうですか?

*11 ルシオ
OWで使用できるヒーローの1人。音楽の力で味方をサポートするDJで回復スキルやスピードアップスキルを使用すると音楽が流れる。


祖堅:
アップデート前の曲は、自分ならもう少しこうしたいなと思っていたんですが、最近のアップデート後のいまの曲は「これぞ」という感じですばらしいです。ルシオしかり、OWは音へのこだわりが伝わってきますね。

StanSmith:
そういえば「大迷宮バハムートからの脱出」(*12)に行ったんですが、残り10分になるとハリーアップのBGMが流れてきたんです。完全にOWですよ(笑)。「早く早く!」とみんな急に焦り出して、結局脱出はできませんでした。

「ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん」(*13)でも日常パートでゲーム音楽が使われていましたが、もともとゲームに合わせて作られていた音楽がゲーム以外で使われることが増えたと思います。

*12 大迷宮バハムートからの脱出
2017年2月から5月にかけて、東京、大阪、名古屋、札幌、福岡で開催されたリアル脱出ゲーム(出題された謎やギミックを解いて閉鎖空間から脱出するゲーム)。

*13 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん
2017年4月から6月にかけてTBS系列とNetflixで放送・配信されたFFXIVを題材にしたテレビドラマ。原作はプレイヤーであるマイディーさんのブログ「一撃確殺SS日記」に連載された「光のお父さん計画」。突然仕事を辞めた父親にFFXIVを勧め、息子は本名を隠してゲーム内で父親と仲良くなるというストーリー。


祖堅:
テレビのニュース番組で『ローカス ~機工城アレキサンダー:起動編~』が流れてきたときはビクッとなりました(笑)。

StanSmith:
ゲーム音楽のオーケストラも増えましたよね。

祖堅:
そうですね。FFXIVも、9月に「FINAL FANTASY XIV ORCHESTRA CONCERT 2017 -交響組曲エオルゼア-」(*14)を開催します。プレイヤーからするとゲーム音楽だけに集中して聴くことはあまりないと思うので、新鮮な気持ちで楽しんでもらえるのではないでしょうか。

*14 FINAL FANTASY XIV ORCHESTRA CONCERT 2017 -交響組曲エオルゼア-
2017年9月開催、FFXIVの楽曲のみを使用した初の単独オーケストラコンサート。近年さまざまな団体や企業によるゲーム音楽のコンサートが増えてきているが、国内では早くも1980年代にはゲーム音楽がオーケストラで演奏されていたという。


StanSmith:
ライブやオーケストラだと音楽を届ける相手の顔が見えますし、反応も分かりますよね。制作側としては、それがすごく面白いのではと思います。

でも、普段制作しているときだと、音楽を届ける相手の顔は見えませんし、どんなふうに受け止められるのかも分かりません。実況も同じで、オフラインの会場なら観客の顔が見えますが、オンラインでの配信だけだと視聴者の顔が見えないんです。なので、やはり反応は気になります。祖堅さんは音楽が届いたという感触はどうやって得ているんですか?

祖堅:
以前は別の会社でアーケードゲームのサウンドを作っていました。なので、ゲームセンターに行けばプレイヤーの反応がすぐに分かったんですよね。家庭用ゲームを作るようになって、それができなくなってしまいました。

とはいえ、いまはSNSや配信中のコメントで反応が分かるのでありがたいです。僕だけでなく、家庭用ゲームの制作に携わっている人はみんなめちゃくちゃ反応をチェックしていると思います。

次のサウンドを作るときは、プレイヤーの声を聞かないことには進歩できません。効果音1つにしても、いちいち反応を知りたいと思っています。

いいゲーム体験の役に立つことがモチベーション

StanSmith:
それはFFXIVのサウンドもちゃんとプレイヤーと向き合っているということですよね。祖堅さんは普段どういう姿勢で音楽を作っているんでしょうか。

祖堅:
最新のゲームは複雑な機材を多数使いこなす技術や、高いクオリティの制作物を大量かつ短時間に制作するスキルを求められますから、そのための勉強は欠かせません。ですが、スキルの向上や音楽の制作と同様に大事なことがほかにあります。

プレイヤーのゲーム体験はさまざまな要素から成り立っていますよね。ビジュアル、サウンド、ゲームバランス、キャラクターなどありますが、それらが組み合わさってようやく、心に訴えかけてくる、感情を揺るがすゲーム体験が生まれます。クリエイターとしてその感覚は知っていないといけないものですが、それはゲームをプレイしないと感じることができません。

なので、僕はスタッフに常日頃から「どのタイトルでもいいから、ハマるほどゲームをプレイして」と言っています。もちろん自分が担当しているゲームならなおいいんですが、ともかく自分でゲームを遊んでいるかどうかが重要なんです。

サウンドはゲームの制作過程では下流に相当するので、作業に取りかかるときはゲームもおおよそでき上がっています。ですから、プレイヤーはゲームのどのシーンで何を感じて感情を揺さぶられるのか、プランナーはどんなことを意図しているのか、そうしたことを汲み取ってサウンドを作ることを心がけています。

どこにどういう音楽が必要なのかは、やはりゲームをプレイしないと分かりませんよね。作るために遊ばないといけません。ゲームを作りたいなら、ゲームが好きということは大事な条件です。

StanSmith:
新しい音楽を作るとき、前に同じようなものを作ったかもしれないとか、誰かの曲に似ている気がするとか、不安になることはありませんか? 実況でもできるだけ同じフレーズは使わないようにしていますが、それでも言葉は限られているので徹底するのは難しいんですよ。

祖堅:
毎回ゼロスタートで作ることを心がけています。例えば、昔使ったドラムセットの音がよかったからといって、それを持ってきて曲を作り始めようとすると似てしまうので。

StanSmith:
小さい頃にピアノを習っていたことがあるんですが、あの限られた鍵盤の中でほとんど無限の表現ができるなんて、僕にとっては信じがたいことです。

祖堅:
逆に、僕は喋るのが苦手なので、StanSmithさんの実況を聴くと信じられない思いになります。どこからこんなに言葉が生まれてくるんだと。僕にとっては言葉で伝えるよりも鍵盤のほうがやりやすいんですよ。むしろ、音だからこそ無限の表現が可能だと思います。それはきっとお互いの表現手段が違うだけで、本質はあまり変わらないのではないでしょうか。

StanSmith:
祖堅さんはあまり自己主張されないタイプですが、作った曲のここを聴いてほしいという気持ちはあるんですか?

祖堅:
やっぱりありますね。でも、それは自己満足の世界だと思います。音楽がよかったと言われるのはもちろん嬉しいですが、コンテンツを遊んで楽しかったと言われること、つまり、いいゲーム体験の役に立てたことのほうが嬉しく感じますね。

僕が主張しないのはそういう意図もあります。音楽だけがすごいのではないし、グラフィックだけがすごいのでもなく、それぞれが合わさってすごいものができていると思っています。

StanSmith:
それは僕も同じですね。実況がよかったと言われるのは嬉しいことです。でも、イベントがよかった、試合がよかったと言ってもらえるほうが自分の仕事としてはうまくいったと感じます。反対に、「あのイベントはひどかったな」と言われると自分の責任も大きいと思いますよ。

祖堅:
実況の力は偉大ですよ。取り立てて見所がないような平凡な試合も、StanSmithさんが実況するだけで急に面白くなるんです。それは僕ら観戦者が気づいていない試合の面白さを見つけて教えてくれるからだと思います。実は面白くない試合なんてないのかもしれませんね。

僕が参加した「スクエニ vs SIE」の第2戦でも、試合の背景やチームの面子に面白さはありましたが、試合内容は普通だったと思います。キル数やスキルの使い方は全然見所がなかったでしょう。でも、StanSmithさんが状況を伝えてくれるだけで盛り上がるんですよ。

うまいプレイヤーならありえないような変なタイミングでスキルを使ってしまっても、「なんでそこで使うんだ!」とか「なんでいま使わないんだ!」と実況してくれるだけで会場に笑いが起きていました(笑)。

StanSmith:
皆さんが真剣に試合に臨まれていることが伝わってきたので、僕はその想いを代弁しているだけなんです。そのせいもあって、選手が本気で勝ちたいという気持ちで挑んだ試合を実況すると、終わったあとに共感して泣いてしまうことがあるんですよ。

先日開催された「Shadowverse 日韓戦」(*15)はその最たるものでした。試合外でも日本代表と話す機会が多くて、背景や人柄、胸の内がとても伝わってきたんです。試合は4人同士のチーム戦で、2対2と引き分けで優勝決定試合を迎えました。優勝決定試合に臨むtemmy選手は日本代表選手のさらに代表として、海外で、しかも大勢の観客の前で、とてつもないプレッシャーを背中にして試合をしなければなりません。

そんな中でどうしても勝ちたいという選手の気持ちをダイレクトに感じて、感極まってしまいました。実況するときに選手の背景を知っているというのは、それほど強烈な要素なんですよ。実況で引き出せる事柄も変わります。

*15 Shadowverse 日韓戦
2017年5月に韓国で開催された国際大会で、日本代表選手と韓国代表選手が4人1組のチーム戦で対戦。スコアは2対2となって優勝決定試合にもつれ込み、日本が勝利した。


祖堅:
たしかに、僕らのプレイは下手だったかもしれませんが、全力で練習したのは確かです。作戦もかなり綿密に打ち合わせたんですよ。誰がどのヒーローを使うかも予想して、さまざまな戦術を考えました。

その当時、仕事が忙しかったのは事実です。でも、全員が負けたくないという気持ちを共有していました。だから、僕はものすごい長文のメールでチームメンバーに作戦を送りつけたんですよ(笑)。

もちろん社長の松田も毎回練習に参加しました。最初はなんだか練習に来てくれなさそうな雰囲気だったので、廊下ですれ違うたびに「練習に来てください」とほかの5人で言い続けていたんです。その熱意が伝わりましたね。

StanSmith:
そんな社長、なかなかいませんよね(笑)。

祖堅:
「遊びじゃないんです!」と。

StanSmith:
それは観客の皆さんにも伝わっていたと思います。

1人が強いだけでは結局勝てない


StanSmith:
最後に率直に聞きます。祖堅さんが仕事で最も大切にしていることは何ですか?

祖堅:
僕はサウンドを作っていますが、もう少し広い意味で捉えると「ゲーム屋」なんですね。サウンドだけで捉えるとエゴが出てきますし、「この音を聴いてくれ」と考えてしまいます。そうならないために、ゲームを作っているという考え方に立ち返る必要があります。

ゲームはチームワークで作るもので、その中の1つとして自分の役割があります。その役割を通してチームに、そしてプレイヤーにいい影響を及ぼすにはどうすればいいのかと考えるようにするんです。

音だけにこだわると、いい音を聴かせるためのメモリを要求することになります。でも、それはゲーム全体にとっていいことかどうかという判断にもとづいていませんよね。もしサウンドのメモリ確保のためにイベントのシーンを1つカットしなければならないとしましょう。たしかにサウンドはよくなる。しかし、シーンがなくなることでプレイヤーのゲーム体験の質は下がるかもしれません。

だから「ゲーム屋であること」と捉えるのが重要なんです。プレイヤーにいいサウンドを聴いてもらうためにすべきことではなく、いいゲーム体験のためにサウンドがすべきことを考えるということです。

あと、自分も楽しみながら作るのが大切です。もちろん辛いときもありますが、それすらも楽しもうと思っていますね。

StanSmith:
僕は会社に勤めた経験がなく、ずっとフリーでやってきました。仕事を依頼され番組などでいろいろな方と共演する中、実況や司会という自分の役割を考えつつ、どうしてもエゴが出てきそうなときがあります。でも、祖堅さんのお考えを聞いて、選手を始め共演者のいいところを引き出すのが自分の仕事だなと改めて思いました。

祖堅:
ゲームも仕事も、チームで取り組むことがほとんどでしょう。キャリーは必要ですが、エゴは必要ありません。そういう意味ではOWはよくできていますね。1人が強いだけでは結局勝てないんですよ。

StanSmith:
そのとおりですね。では、最後の最後に教えてください。祖堅さんの大好きなキャベツ太郎に音楽をつけるとしたら、どんな感じになりますか?

祖堅:
全然関係ない(笑)。キャベツ太郎はコロコロしていてかわいい感じで、最後にはぐしゃっと潰れてしまいますよね。サクサク感があるのでけっこうポップだと思います。でも、油が濃いのでBPMはそれほど早くない曲かな。

StanSmith:
もう1つ、仕事中もよく食べているという大好物のからあげクンならどうですか?

祖堅:
20年以上の思い入れがあるんで難しいですね……(笑)。いまはパッケージにニワトリの妖精「からあげクン」がプリントされていますが、昔は普通のおっさんだったんですよ。名前は「からあげオヤジ」。

その印象が強いので、おっさんぽい曲になりそうです。でも……うーん、よく分からない(笑)。


■関連リンク
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【連載】StanSmith(岸大河)が会いに行く