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『INMOST』が挑んだ「ハッピーエンドの呪い」からの脱却【インディーゲームレビュー 第81回】

ゲームのエンディングはプレイヤーに対するご褒美だ。そのためゲームには「ハッピーエンドの呪い」がかけられている。リトアニアのインディーゲームクリエイターが開発した『INMOST』は、この制約からの脱却に挑んだ一作だ。


君は『あまちゃん』のストーリーを覚えているか?

NHK連続テレビ小説で2013年に放映され、大ヒット作となった『あまちゃん』。では、本作のストーリーを覚えている人はいるだろうか? 「東京から地方に移住した女の子が海女になってローカルアイドルになって上京して、その母親も元アイドル志望で、劇中で東日本大震災があって……」など、印象的なエピソードは多々あがるだろう。ただし、結局どういう話だったのかと言われると、口ごもる人が多いのではないだろうか。理由は簡単で、それが「朝ドラ」だからだ。

「朝ドラ」は1回15分の番組が月曜から土曜まで、毎週テーマを変えながら半年間続く(『エール』から月曜から金曜までに移行)、ユニークな形式の連続ドラマだ。特徴の一つに番組の視聴者層や視聴形態の多様さがあげられる。熱心なファンがいる一方で、「時報代わりに見ている」という声もあるほどだ。これを可能にするのが「女性の一代記」(近年は夫婦の二人三脚も目立つ)という、多くの視聴者に共感を抱かせるテーマ設定と展開。そのうえで毎回、さまざまな趣向が凝らされているのだ。


ハッピーエンドの呪いから逃れようとした「鬱ゲー」

このように、あらゆるコンテンツはメディアの形態やビジネスモデルに左右される。ゲームも例外ではなく、第18回で取り上げた『Old Man’s Journey』で論じたように、「ハッピーエンドの呪い」がかけられている。ゲームはプレイヤーに繰り返し挑戦することを強いるメディアで、だからこそ、エンディングには「ご褒美」としての役割が求められる。しかし、このことは「ゲームの可能性を閉ざしている」ともいえる。ハッピーエンド以外のストーリーがつくりにくいからだ。

こうした中、2019年にリリースされたパズルアドベンチャー『INMOST』は、インディーゲームならではの可能性を示したタイトルだと言える。ハッピーエンドとはほど遠く、いわば「鬱ゲー」とでも言うべき内容になっているのだ。詳細はネタバレになるので控えるが、プレイヤーは良くも悪くもエンディングで驚かされることになるだろう。そのうえで、こうしたゲームが高い評価を得ている点に(本作はApple Arcadeの一作にも選ばれた)インディーゲームの成熟ぶりが感じられた。


三人の主人公による余白を残したストーリー展開

ゲームの主人公は、かつて魔女がいたとされる古城を探索する男性、城の奥底で魔物と戦う騎士、そして不気味な家で秘密を探る少女の3人だ。ストーリーは一本道で、ステージによって主人公が交代し、それぞれの物語が展開していく。それらの物語はラストで一本に結実するものの、謎や伏線がすべて解き明かされるわけではない。ナラティブゲームに特有の「空白を残した内容」で、各々のプレイヤーに対して自分なりの解釈を残す結末になっている。

ユニークなのはゲームのメカニクスが主人公ごとに異なっていることだ。男性は一般人という設定で、パズルを解きながら進んでいき、魔物が登場しても逃げるか、環境を利用して撃退することしかできない。反対に騎士のパートではパズルらしいパズルはなく、魔物を切り伏せながら、ぐいぐいと進めていく。少女のパートではクマのぬいぐるみと自問自答しながら、戸棚を調べたり、椅子を動かして家具によじ登ったりしながら、屋根裏部屋の秘密を解き明かしていくことになる。

モノトーンをベースに、ドット絵で描かれたゴシックホラー調のグラフィックは本作ならではだ。開発したのはリトアニアのインディーゲームクリエイター、Hidden Layer Gamesで、コアメンバーはゲームデザイナー&アーティストと、プログラマーの2人のみ。構想8年、実質3年の時間をかけて作り上げた。バルト三国に位置するリトアニアには中世の街並みが今も残り、本作の世界観やアートワークに大きな影響を及ぼしたことは想像に難くないだろう。


ゲームの文法を超越することで見えてくるもの

もっとも肝心のストーリーはというと、「良くわからない」というのが正直なところだ。ストーリーが断片化され、バラバラに提示されていくうえ、内容も哲学的。魔女・花・白い狐など、さまざまなキーワードが登場するが、筆者を含む日本の平均的なゲーマーレベルでは、理解がおぼつかないのではないだろうか(ただしローカリゼーションのレベルは高い。それだけに翻訳者の苦労が偲ばれる)。ハラハラドキドキの展開ではなく、世界観を含めた雰囲気を楽しむゲームだといえる。

その上で本作を忘れがたいものにしているのが、約20分も続くエンディングだ。正確にはゲームの終盤、もっとも盛りあがるパートにさしかかったところで、プレイヤーはゲームから締め出され、画面を見つめるだけになる。その後、あれよあれよという間に、それまでの謎解きが行われていき、気がついたらスタッフロールが表示されている……という流れだ。テレビ版『新世紀エヴァンゲリオン』のラスト2話のように、コンテンツが持つ文法を良くも悪くも超越している点がユニークだ。

正直に言って人を選ぶタイトルであることは間違いない。その一方でドット絵による美麗なグラフィックや、ゲームの外側に何かを感じさせるような世界観の広がり、そしてヌルヌル動くアニメーションに裏打ちされた操作感は秀逸だ。ハリウッド映画のようにすべてが解き明かされるストーリーは、意外と心に残らない。むしろ本作のような、余白を残したストーリーの方が想像力が膨らむところがある。ゲームの可能性を広げる一作になったといえるだろう。


© Chucklefish/Hidden Layer Games

STEAM『INMOSTt』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/938560/INMOST/
INMOST公式サイト
https://inmostgame.com/
CHUCKLEFISH公式サイト
https://chucklefish.org/
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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