ALIENWARE ZONE

GAME PCゲームで勝ち抜くための情報満載!

『Expand』ゲームの基本形が見せたセンスオブワンダー【インディーゲームレビュー 第11回】

 
センスオブワンダーナイト(以下:SOWN)2014」のファイナリスト作品『Expand(イクスパンド)』。文字通り“センスオブワンダー”を実感させる作品だ。しかし、その構造を掘り下げていくと、ゲームの基本に忠実な作りであることがわかる。ミニマリズムが織りなす新しいゲーム体験とは何か。

「SOWN2014」のファイナリスト作品

見た瞬間・触れた瞬間に頭が真っ白になり、言葉にできない体験に襲われる……。優れたゲームにはこのように、遊び手を一瞬のうちに異世界に連れ去る力がある。世界中からそうしたタイトルを選りすぐり、プレゼンテーションを行うイベントが「SOWN」だ。東京ゲームショウで毎年開催され、今年で10周年を迎える名物企画となっている。

今回取り上げる『Expand』もまた、「SOWN2014」のファイナリスト作品として注目を集めた作品だ。制作者はゲームの開発全般を担当したクリス・ジョンソンと、映画音楽畑の作曲家クリス・ラーキンという、二人のオーストラリア人。会場ではミニマルなグラフィックと、どこか懐かしいサウンドが織りなす映像美が大いに注目を集めた。

https://www.youtube.com/watch?v=jtzuDNWvIe4&feature=youtu.be
幾何学的なグラフィックで織りなされるシンプルで美しい世界

ミニマルなグラフィックとナラティブ

ゲームはコントローラーで四角いドットを操作しながら、回転・拡大・縮小するステージの中で黒い枠線や赤いエリアをうまく避けつつ、ゴールをめざすというものだ。赤・白・黒といった原色に彩られたミニマルなグラフィック・リズミカルなアニメーション・計算され尽くしたレベルデザイン・没入感の高いサウンドなどがあわさって、手垢のついた言葉で恐縮だが、「まったく新しいゲーム体験」を提示している。

しかも本作の超人的なところは、これほどシンプルな内容にもかかわらず、遊び手に物語体験を与える……いわゆるナラティブを意識したデザインになっている点だ。ステージは円をモチーフとしたデザインで、レコード盤のような回転運動を行っている。これに対して自機は四角く、移動も自由自在だ。つまり完璧に調和がとれた世界の中で、自機の存在だけが異質なのだ。

自機を押しつぶそうとする世界の動きは、間違って外部から入り込んでしまった異物を排除しようとする人体のようでもあり、世界を均質に染め上げようとする全体主義国家のようでもある。それでは、なぜ自機はそうした世界をすり抜け、ゴールを目指そうとするのだろうか。答えはプレイヤーごとの解釈に委ねられるべきだろう。幾何学的なグラフィックのみで、これを成し遂げた作り手の発想力には驚きを禁じ得ない。

世界の中心に向かって自機は進む。世界に押しつぶされそうになりながら……

「ネコから逃げろ!」との意外な共通点

もっとも、本作を構造的に分析すると「プレイヤーが操作できるもの(=自機)」「プレイヤーが操作できないもの(=ステージ)」「両者の当たり判定と、それにもとづく一連の処理」という3要素に分類できることがわかる。そして、これはほとんどすべてのゲームに共通して見られる要素である。ゲームの余分な要素をふるい落としていった結果、最後に残ったものが『Expand』を形作っているともいえる。

実際にScratch(米MITが開発した初心者向けビジュアルプログラミング言語)のチュートリアルとして知られる「ネコから逃げろ!」も、「マウス操作で移動するネズミ」「画面上を独自のアルゴリズムで移動するネコ」「スコアと当たり判定」という3要素で成り立っている。作品のクオリティは段違いだが、こうした視点からみると両者は同じであることがわかる。

https://www.youtube.com/watch?v=gaLgO404yWA
「ネコから逃げろ!」のプログラミング画面

ちなみに「ネコから逃げろ!」のチュートリアルでは(どのような順番で作ってもいいはずなのに)、はじめにネズミをプログラムし、次にネコ、最後に当たり判定の順番で作り方が解説されている。この手順をふむことで、ゲームがプレイヤーの体験を中心にデザインされる「プレイヤー中心設計」思想で作られていることを、プログラミング初心者に自然に理解させる配慮がなされている。

マップエディタは近く一般にも公開される予定だ

ひるがえって『Expand』においても、制作においてステージエディタが用意された。このことは本作もまた、プレイヤー中心設計思想でデザインされていることを物語っている(ゲーム制作である以上、当然なのだが)。このように本作は一見すると突飛なようでいて、実はゲーム制作の基本に極めて忠実な作りになっていることがわかる。そこから“センスオブワンダー”が生まれている点に、改めて驚きを禁じ得ないのだ。

■関連リンク
Steam『Expand』のページ
http://store.steampowered.com/app/399780/Expand/
センスオブワンダーナイト2017
http://expo.nikkeibp.co.jp/tgs/2017/exhibition/exhibit/senseform.html
Scratch「ネコから逃げろ!」
https://scratch.mit.edu/projects/2720899/

【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー