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『公衆電話』プレイヤーと主人公の心情を近づける方法【インディーゲームレビュー 第74回】

ゲームならではのギミック「選択肢」。しかし、実際にはプレイヤーの心情とかけ離れた選択を強要される例も多い。プレイヤーをゲームに惹きつける「理想の選択肢」とは何か。公衆電話に閉じ込められた男性が主人公の『公衆電話』は、その答えの一つだ。


公衆電話に閉じ込められたら何をする?

あなたがレストランに座って、注文しようとしている。この時、メニューは選択肢のリストだと見なせる。ほとんどの人はメニューの中から自分の食べたい料理を選んで、注文しようとするだろう。

もっとも、これがゲーム中の選択肢だとしたら、どうだろうか。大半のゲームでは一度に選べる選択肢は3~4種類といったところだ。選択肢に出てきた料理が、苦手なものばかりかもしれない。それでもゲームを進めるには、どれか一つを選ばなければいけないのだ。ゲームだとわりきっても、どこか釈然としないものを感じる人も多いのではないだろうか。

このようにRPGやAVGなど、物語性の強いゲームでは「主人公とプレイヤーの心情の乖離」という問題が発生する。ゲームのインタラクティブな性質が、両者の乖離を引き起こしてしまうのだ。これが続くと「自分はこんなことを言わない」「こんな選択肢を選ばない」と、プレイヤーのモチベーションを下げる原因になってしまう。

もっとも、このとき仮に大地震が発生したとしたら、どうだろうか。大半の客は注文をそっちのけで、テーブルの下に隠れようとするだろう。主人公が同じような選択をとることに、疑問視するプレイヤーは少ないと思われる。プレイヤーと主人公の心情が重なりあった瞬間だ。このように人間の行動選択は無限大でも、適切なシチュエーションを設定することで、行動選択の幅を無理なく縮められる。


電話をかける行為を選択肢に見立てる

今回レビューするビジュアルノベルゲーム『公衆電話』も、このテクニックをうまく活用したゲームだ。

主人公は公衆電話ボックスに閉じ込められた男性だ。脱出しようも扉が開かず、ガラスを突き破ることもできない。身につけているものといえば、所持金の30円だけ。この状況でプレイヤーが取り得る選択と言えばなにか。そう、電話をかけて助けを呼ぶことだ。実際に本作は1プレイで3回しか電話がかけられない。これで脱出できなければ、死を暗示させる描写と共にゲームオーバーになるのだ。

想像してみて欲しい。自分が同じ状況に陥ったら、どの番号にかけるだろうか。警察か、消防か、それとも実家か、友達か、あるいはどこかに置き忘れたに違いない、自分の携帯電話か……。本作ではこうした、プレイヤーが選択するであろう番号については、それなりの反応が用意されている。場合によってはそこから、新しい電話番号が入手できるなど、手がかりが得られることもある。

その一方で、ゲーム内で関係のない電話番号(たとえば、プレイヤー自身の電話番号など)をダイアルしても、「おかけになった電話番号は現在使われておりません」と表示されるだけ。そして10円玉が1つ消費され、死に一歩近づく……。「電話ボックスに閉じ込められる」という不条理な世界観と、「3回しか電話できない」というゲームシステムに紐付いた、スマートなやり方だ。


からめ手でプレイヤーの選択肢を狭める

このように本作では、「電話ボックスに閉じ込められる」という不条理なシチュエーションを設定することで、選択肢を「電話をかける」ことに制限する一方で、「任意の番号に電話がかけられる」という自由度を与えている。また、「特定の電話番号以外につながらない」というゲーム的な嘘にも、説得力を持たせているのだ。世界観とゲームシステムが巧みに融合した、優れた設定だ。

もっとも本作は、たとえゲームオーバーになっても、そこで終わることはない。プレイヤーがメモをとっていれば、それまでに得た情報(電話番号)を生かして、再プレイできるのだ。電話をかけていくことで、新たな電話番号を入手したり、プレイヤーの過去や人間関係について理解が深まったりすることもある。いわゆるループものの体裁をとっているのだ。

さらにゲームが進むと、過去の人々に電話できるようにもなる。これによって物語は一気にタイムループものの様相を呈していく。自分が閉じ込められている原因が、過去の出来事や人間関係にあり、その因果関係を修正することで、脱出できるのではないか……そうした希望につながっていくのだ。ここに来てプレイヤーは、本作のテーマが主人公の精神的な救済であることを理解するのである。

そのため本作には電話をダイアルする以外に、ストーリー分岐のための一般的な選択肢も登場する。しかし、すべての選択肢がこのテーマに即して設定されているため、プレイヤーと主人公の乖離感は少ない。プレイヤーは自由意思でストーリーを選択しているようで、実際はゲームの作り手の手のひらで踊らされている……。遊ぶほどに、そうした「幸せな不自由さ」を体験できるだろう。


ビジュアルノベルを学ぶ学生にむけた秀逸なテキスト

本作のもう一つの特徴は、1プレイが5分程度で終了することだ。複数のルートをたどりながら、エンディングを一つずつクリアしていくことで、次第に全体像が浮かび上がっていく仕組みになっている。これにより一度クリアしても、別のルートでリプレイしたいと思わせる内容になっているのだ。全ルートを制覇しても、どこかモヤモヤした部分が残る点も、本作を印象深いものにしている。

まとめると本作はシチュエーションを限定したり、選択肢をテーマに即したものにしたりすることで、プレイヤーと主人公の心理的な距離を縮め、「選択肢の有限性」に意味を持たせている。また、ゲームをループものにして、徐々に主人公を取り巻く状況や、人間関係をあきらかにしていくことで、リプレイバリューを持たせている。さまざまな意味で、教科書的な内容だ。

余談だが、本作はビジュアルノベルゲームエンジン「ティラノビルダー」と、より細かい演出などができる「ティラノスクリプト」上で制作され、ネット上で販売されている。ゲームで使用されているスクリプトが実際に確認できるため、本エンジンの学習には最適だろう。ビジュアルノベルゲームの制作者を志す学生であれば、ぜひこちらもチェックしてみて欲しい。


ノベルゲームコレクション『公衆電話』配信サイト
https://novelgame.jp/games/show/1059
ティラノビルダー
https://b.tyrano.jp/
『公衆電話』開発スクリプト集+おまけ
https://morisoba0121.booth.pm/items/1989054
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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