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新型コロナウイルスの感染拡大と『The Church in the Darkness』が示すもの【インディーゲームレビュー 第71回】

ゲームの評価は文脈によって変わる。1970年代のカルト教団がテーマの『The Church in the Darkness』も同様で、新型コロナウイルスの影響で社会生活が麻痺する中、複雑な意味を醸し出している。


陳腐なプロパガンダ放送が意味を持つ時

ドラマの登場人物が癌で死ぬ。ありふれた展開で、心を動かされることは特にない。しかし、NHK連続テレビ小説『ちりとてちん』(2007~2008)の場合は違った。主人公の師匠が劇中で癌の告知を受けたころ、自分の父親も末期癌でホスピスに入っていたからだ。コンテンツの評価や受け止め方が、受容者のコンテキストによって変わることを、実感させられることになった。

元警官のヴィクとなり、南米のカルト教団に潜入して、甥の近況を確かめるステルスアクション『The Church in the Darkness』でも、同じことが言えるかもしれない。ゲームの舞台は1970年代で、ジャングルの奥地に切り開かれたコミューンでは、キリスト教とマルクス主義を融合させた過激思想がうずまいている。本作がリリースされた2019年8月の時点では、歴史の一コマのように聞こえた。


しかし原稿執筆時点(2020年3月24日)では、ゲーム中のメッセージが一層、重みをもって感じられる。新型コロナウイルスが世界中で猛威をふるっているからだ。中でもアメリカは顕著で、感染者数が3万人を越え、増加に歯止めがかからなくなっている。トランプ米大統領が国家非常事態を宣言すると、スーパーマーケットから食料品やトイレットペーパーが消え、街は火が消えたようになった。

感染拡大の背景にあるのが、国民皆保険が存在しない、アメリカ特有の医療制度だ。盲腸の手術で数百万円を請求されたなど、海外旅行者を巡る悲喜劇は多い。社会が所得によって二分化される中で、今や低所得者層にとって病気にかかることは、破滅への片道切符と同義語になりつつある。今回の感染拡大が社会の矛盾を明らかにしつつある中、教団の反米思想は社会に対する警告のようにも聞こえてくる。


人民寺院の悲劇をモチーフとした本作

もっとも開発者としては、そうした社会批判は毛頭考えていなかっただろう。本作がモデルとしたのは1978年に南米ガイアナでおきた「人民寺院の悲劇」であって、アメリカの医療制度や、資本主義社会の矛盾ではないからだ。いわば発売後の予期せぬ事態によって、ゲームの評価が(少なくとも筆者には)大きく変わってしまった一例だといえる。

米インディアナポリスで1955年に誕生した人民寺院は、成長の過程で当局に追われ、ガイアナにコミューンを設立する。コミューンは次第に左翼的性格を強めていき、最悪の結果をむかえた。米下院議員の視察が引き金となって、空港で視察団が殺害されたのち、276人の子どもを含む918人が服毒自殺したとされている。この集団自殺は9.11までアメリカの故殺において最多の被害者数を記録した事件となった。

本作の世界観には事件を彷彿とさせる描写が数多く存在する。スピーカーから流れるプロパガンダ放送、武装した警備員によるパトロール、檻の中での監禁、リンチ、印刷物のグラフィックデザインなどだ。一方で子供は登場しないなど、倫理的な配慮もなされている。エンディングなどで流れる挿入歌も良質で、アコースティックギターの演奏と相まって、ノスタルジックな雰囲気を良く醸し出している。


ユニークなナラティブゲームとして注目された本作

さて、これらの要素を排除し、ゲームのメカニクスに視点を移すと、どうだろうか。最大の特徴はステルスアクションとフラグ式アドベンチャーゲームの融合だろう。

本作でプレイヤーは住人や警備員の死角をぬって、自由にコミューン内を探索し、ゲームを進めていける。住人の視野を確認し、石を投げて気をそらした上で、ダッシュで背後を駆け抜けたりすることも可能だ。背後から忍び寄って気絶させたり絞殺した上で、相手を担いで移動させ、物置に隠したりもできる。銃や麻酔薬を使ったり、村人や警備兵に変装したりもできる。ゲームならではの壮大な鬼ごっこだ。


一方、ストーリー面では教団を率いるウォーカー夫妻の性格が毎回変わるほか、プレイヤーの行動によっても展開が変化していく。本作でプレイヤーは誰でも(甥のアレックスすらも!)殺害できるし、徹底した非戦主義を貫いても良い。住人の机から毒物が発見されることもあれば、教団の過去の善行を伝える新聞記事が見つかることもある。どのように感じるかはプレイヤー次第というわけだ。

エンディングも19種類用意されており、ゲームを遊ぶ度に入手できる情報の断片をつなぎあわせて、世界観の全体像を推測する楽しみもある。過去にレビューした『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』に近い構造を持つナラティブゲームだ。もっとも簡単な難易度であれば、一周を15~20分程度で終わらせることもできる。何度も繰り返し遊ぶことが推奨されているゲームデザインだ。


サティアン潜入ゲームはあり得るか

ただし、どこまで遊び込めるかは、皮肉にもプレイヤー次第だ。ストーリーの主要な展開は決まっており、サブの登場人物を巡るエピソードも、実績解除の意味合い程度しかない。エンディングも似たようなものが多く、謎が謎を呼んで全てを見たくなる内容ではない。ゲームプレイも、良くも悪くも鬼ごっこの範疇に留まっており、総じて飽きやすい側面は否めないからだ。

もっとも、これらはあくまで筆者の感想であることに注意して欲しい。記事前半で記したとおり、ゲームの受け止め方はプレイヤーのコンテキストによって異なるからだ。極端な話、本作を人民寺院の悲劇の関係者がプレイしたら、また違った感想を持つだろう。作品を世に出すことは、そうした多様な感想や、思わぬハレーションを引き受ける責任を負うことでもある。

それでは、誰もが最適な物語体験を得られるようなゲームは開発可能なのだろうか。多くのゲーム開発者が挑戦を繰り返す、究極の目標の一つであり、本作もまた、その一里塚だと言えるだろう。その一方で本作が持つ独特な雰囲気や、実在の事件をモチーフにしたゲーム作りは、一見の価値がある。近い将来、日本でもオウム真理教や浅間山荘事件にインスパイアされたゲームが制作されることを期待したい。

The Church in the Darkness © and ® 2018 Paranoid Productions LLC. All Rights Reserved.

■関連サイト
Steam『The Church in the Darkness』販売サイト
https://store.steampowered.com/app/339830/The_Church_in_the_Darkness/?l=japanese
『The Church in the Darkness』公式サイト
https://www.paranoidproductions.com/church/index.html
Wikipedia「ジョーンズタウン」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%82%BA%E3%82%BF%E3%82%A6%E3%83%B3
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