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『Plague Inc: Evolved』新型コロナウイルス騒動が示す現実とゲームの関係性【インディーゲームレビュー 第70回】

世界規模で広がる新型コロナウイルスの脅威。こうした中、パンデミックをテーマとした『Plague Inc: Evolved』に注目が集まっている。伝染病で人類を絶滅させることを目的とした本作が意味するものとは何か。


中国のApp StoreとSteamで販売中止が決定

新型コロナウイルス(COVID-19)が全世界で猛威をふるっている。本稿執筆時(2020年3月7日時点)で感染者は10万人に達しそうな勢いだ。こうした中、良くも悪くも注目を集めているタイトルがある。伝染病を流行らせ、人類を絶滅させるシミュレーションゲーム『Plague Inc: Evolved』だ。

開発・販売は第65回で取り上げた『Rebel Inc: Escalation』と同じ英Ndemic Creationsで、2012年にスマートフォンゲームとしてリリースされると、有料ゲームとしては異例のヒットを記録した。PCやコンソールにも移植され、全世界で1億3000万人がプレイしたほどだ。今回の感染拡大で人気が再燃した形で、Steamでも2020年1月に同時接続者数が急増している。


もっとも、ヒットによる副作用も出始めた。2月27日に突如、中国のApp Storeから「違法なコンテンツが含まれている」として削除されたのだ。3月2日には中国版Steamからも削除されている。中国当局は本件について具体的な理由をあきらかにしていない。

これに対してNdemicは公式サイトで同日、「本作はプレイヤーが深刻な公衆衛生問題について考え、学ぶことを奨励する、知的で洗練されたシミュレーションとして際立った存在である」とコメントした。

続いて、「今回の措置が、中国が直面しているコロナウイルスの大流行に関連しているか否かは不明だが、本作の教育上の重要性はCDC(米疾病予防管理センター)などの組織によって、繰り返し認識されている」「現在主要な世界保健機関と協力し、COVID-19を封じ込め、管理する取り組みの支援を進めている」とあきらかにしている。


また、これに先立つ1月23日、同社は本作を「現実世界の深刻な問題をセンセーショナルな形ではなく、現実的で有益なものにするように、特別な配慮をもちいて設計した」こと。そのうえで、「本作は科学的なモデルに基づいているものではなく、ゲームである。それに対してコロナウイルスの発生は非常に現実的な状況であり、膨大な数の人々に影響を与えている」「プレイヤーは地元および世界の保健当局から直接情報を入手してほしい」と、声明を発表している。

このことはCOVID-19の感染拡大に伴い、大量の問い合わせが同社に届いたことを意味している。また、その中には「伝染病をテーマにしたゲームで利益を上げるのは、不謹慎である」などのクレームが混じっていたことも、想像に難くないだろう。

実際、世界保健機関(WHO)Webサイトからたどれる世界の感染者状況は、『Plague Inc: Evolved』のメイン画面と不気味な相似形を示している。実際、このビジュアルだけ見せられても、現実か否か判断できないのではないだろうか。


感染力と致死力のバランスをとりつつ進化させる

それにしても、こうして社会問題化するほど注目を浴びた『Plague Inc: Evolved』は、どのようなゲームなのだろうか。

本作でプレイヤーが担当するのは新種の伝染病だ。はじめに潜伏する国を選び、徐々に感染を広げていく。感染拡大に応じてDNAポイントが獲得でき、苛酷な環境に適応したり、致死性を高めたりと、自身の能力を高めていけるのだ。感染を広げる方法は、水や空気、動物や昆虫、人から人へと多岐にわたる。臨界点を超えると一気に感染が拡大し、パンデミックのシステムを感覚的に理解できる。このようにして感染を広げ、全人類を死滅させることが目的だ。


もっとも、そこには2つの障害が立ちふさがる。第一に人間側の対策だ。新種の伝染病で、致死性が高いことが判明すると、世界中でワクチンの研究がスタートする。研究が完了すると伝染病が駆逐され、存在自体が消滅してしまう。自身を強化したり、研究を邪魔したりすることでワクチンの開発を遅らせることはできるが、そこまで直接的な介入はできない。そのため終盤は人類を絶滅させるのが早いか、ワクチンの研究が完了するのが早いか、競争になることもしばしばだ。

もう一つ、伝染病ならではの特性もある。伝染病であるプレイヤーは、自分では移動できない。そのためキャリアとなる存在が必要だが、あまりに致死性が高いと人類が絶滅する前に、感染経路が絶たれてしまう恐れがあるのだ。実際、フィリピンやニュージーランドといった島国で、人類が最後まで生き残ることもある。そうなってしまえば、これまたゲームオーバーだ。感染力と致死力のバランスをとりつつ、最適なタイミングを見計らって一気に殲滅させることが重要なのだ。

また、スマートフォン版と異なり、PC版では2人用の対戦・協力プレイモードも追加されている。お互いが別々の伝染病となり、どちらがより多くの人類を死滅させられるか競ったり、互いに協力して人類を絶滅させたりする遊びが楽しめる。シナリオエディターを用いて自作シナリオを作成したり、ネット上で共有したりすることも可能だ。さまざまな公式シナリオも存在し、中には映画『猿の惑星:創世期』シリーズとタイアップしたものもある。知性のある猿を増やし、人類にとってかわることが目的だ。


現実とゲームの関係性は常に一方通行だ

筆者は公衆衛生の専門家ではないため、本作のシミュレーションモデルを評価することはできない。実際、本作は公衆衛生に関するさまざまな知見や情報が満載で、大量のリサーチのもとに開発されたことは想像に難くない。もっとも、素人目にも大きな嘘があることはわかる。それは伝染病が短期間で次々に自己成長を繰り返し、環境に適応していく点だ。有史以来、そんな伝染病があり得ないことは、すぐにわかるだろう。

ただし、それ以外の要素は非常に現実味をもってデザインされている。大きな嘘を隠すためには、無数の真実を積み上げていく必要があるからだ。言い換えれば本作は、「現実を抽象化」するだけでなく、たくみに「誇張」しているのだ。だからこそ本作はエンタテインメントとして、また公衆衛生について学ぶためのきっかけとして、世界的なヒットを記録しているのである。

このことは、現実からゲームを類推することはできても、ゲームから現実を類推することはナンセンスであることを示している。にもかかわらず、時としてゲームが現実に影響を与えてしまうことがある。本作でいえば中国当局によるストアからの削除だ。これはゲームではなく、それをとりまく社会の側に問題がある。端的にいえば、現実とゲームの区別がつかない大人や、ゲームに乗じて社会を批判しようとする大人が多すぎるのだ。

ゲームが現実をどのように抽象化・誇張化しているか。そのために、どのようなテクニックを用いているか。これらを理解することは、ゲームと正しくつきあう「ゲーム・リテラシー」を高めるうえで不可欠だ。本作に関する一連の騒動は、図らずもこの点を浮き彫りにしたと言える。


■関連リンク
Steam『Plague Inc: Evolved』販売サイト
https://store.steampowered.com/app/246620/Plague_Inc_Evolved/
Ndemic Creations
https://www.ndemiccreations.com/en/
WHOによる新型コロナウイルス感染者数の推移
https://experience.arcgis.com/experience/685d0ace521648f8a5beeeee1b9125cd
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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