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『Ghone is gone』ゲーム開発の民主化が生んだ「不謹慎ゲーム」とクリエイターの倫理【インディーゲームレビュー 第68回】

ゲーム開発が「お絵かき遊び」なみに簡単になった時、どのようなゲームが生まれるだろうか。カルロス・ゴーン氏の逃亡劇をモチーフにした『Ghone is gone』は、ゲーム開発民主化の申し子であり、良くも悪くもゲームの可能性を知らしめる問題作だった。


カルロス・ゴーン氏の逃亡劇をモチーフにした問題作

2020年は衝撃のニュースと共に幕を開けた。日産自動車元会長で保釈中のカルロス・ゴーン被告がプライベートジェットでレバノンに逃亡したからだ。報道によると楽器箱に身を隠し、出国時の検査の目をかいくぐって、関西国際空港から国外に逃亡したという。スパイ映画さながらの脱出劇に、世界中のメディアが注目した。そして、そこから約一ヶ月後、ゲーマーは再び衝撃を受けることになる。この逃亡劇をモチーフにした問題作『Ghone is gone』がリリースされたからだ。

本作は「元ニッソンCEOロスカル・ゴンとなり、監視を続け追い回す検察・警察などの敵の目をくぐり抜け、時には楽器箱に身を隠しながら、西関空港へたどり着き、ノンレバ国に脱出する」ゲームだ。Steamのゲーム販売ページにはわざわざ「このゲームはフィクションです。実在の人物・団体・国家・施設とは無関係です」と記されているが、これを真に受ける人はいないだろう。本作はSteamに登場するや否や、いわゆる「不謹慎ゲーム」として良くも悪くも高い注目を集めることになった。

札束を四方八方に投げつけて撃退(買収)し、追っ手をかわしていく

微妙なバランスが醸し出す絶妙な遊びにくさ

本作のゲームシステムは見下ろし型のツインスティックシューターで、目的はゴンを動かして空港にたどり着くことだ。ゴンの行く手をはばむ警察・検察や、元ニッソン社員のヒットマンなどが登場するので、買収でかわしたり(札束を相手に投げつけて撃退する)、楽器箱に隠れたりしながら移動していく。ゲーム開始時に2600億円の資産を所持しており、相手に札束を投げつけたり、攻撃を受けたりすると資産が減少する。資産がゼロになるとゲームオーバーで、脱出時の残り資産がスコアになる。

もっとも、ゲームの完成度はそれほど高くない。というよりも、あえて完成度を下げているふしが見受けられる。最大の特徴は画面左に表示されるゴンのビジュアルだ。ダメージを受けると苦悶の表情を浮かべるが、いかんせんキャラが大きすぎて、ゲーム画面を見づらくしている。そもそも下手にザコキャラを相手にするくらいなら、さっさとダッシュ移動で逃げる方が早いくらいだ。これに対してボス戦では、打って変わって難易度が急上昇する。照準がマウスにうまく追従してくれないことが主な原因だ。

ただし、これらはいずれも致命傷というほどでもない。なにより金額が100円というのが泣かせる。今や缶コーヒーよりも安くなってしまったほどだ。そもそも缶コーヒーにレギュラーコーヒーと同じ味と香りを求めるだろうか。基本プレイ無料を謳いながら、実際はアイテム販売で儲けるゲームより、よほど良心的ではないのか。なにより時事ネタをうまく盛り込んだタイムリーさこそ、今のゲーム業界が失っている点ではないのか。こうした、さまざまな深読みができる点が本作の魅力だろう。

札束を投げつけたり、相手から攻撃を受けたりすると資産が減り、ゼロになると逮捕されてゲームオーバーだ

ゲームで世相を表現できる時代がもたらすもの

本作の背景にあるのがゲームの民主化であることは、言うまでもないだろう。もっとも本作の開発経緯について、筆者は知るすべがない(長い時間をかけて開発されていたゲームが、土壇場でビジュアルだけ差し替えられて販売されたのかもしれない)。しかし、Unityをはじめとしたゲーム開発環境の整備が、本作の一助になったことは間違いないと言える。それまでこうした、時事ネタを扱ったゲームはFlashの独壇場だった。それがいよいよネイティブゲームになって登場できるようになったのだ。

その一方で本作は、ゲームを用いて世相を表現する「ニュースゲーム」の文脈に連なるゲームであるとも読み解ける。対テロ戦争における民間人死傷者をあつかった『September 12th: A Toy World』などが好例だ。同作でプレイヤーは復讐の連鎖が何も生まないことを遊びながら知ることになる。テロリストを殺害するために放ったミサイルで、周囲の民間人が死傷し、あらたなテロリストを生むからだ。体験メディアであるゲームの特性をうまく活かしたコンテンツとして、高い評価を得た。

『September 12th: A Toy World』

それでは『Ghone is gone』と『September 12th: A Toy World』の違いは何だろうか。『Ghone is gone』の登場時、一部のメディアでは「不謹慎ゲーム」と紹介したが、「不謹慎さ」の基準はどこにあるのだろうか。Wikipediaでは「不謹慎ゲーム」について、「注目度の高い事件が発生した後にその事件をネタにして作成、発表され、その事件を茶化すことを主な目的としたコンピュータゲーム」という説明がある。しかし、その基準が人によって違うことは言うまでもないだろう。

その一方で、表現の自由には責任がつきまとう。しかもこれから、ゲーム開発の民主化に伴い、またゲーム教育の進展に伴い、世界中のあらゆる層へとゲーム開発が広がっていく。ゲームで世相を表現する時代が到来するのだ。そこで求められるのはクリエイターとしての倫理観となる。このことは、マンガ・小説・映画・アニメなど既存の表現媒体では当たり前のことだ。いよいよゲームもその領域に足を踏み入れてきた。そのことを強く感じさせるタイトルだったと言える。

<参考・参照元>
不謹慎ゲーム - Wikipedia

■関連リンク
Steam『Ghone is gone』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1220890/Ghone_is_gone/
『September 12th: A Toy World』公式サイト
http://www.gamesforchange.org/game/september-12th-a-toy-world/
ニュースゲーム – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A0
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