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『陶芸マスター』SNS時代が可能にした自己承認欲求とゲームの関係【インディーゲームレビュー 第63回】

モニター上で好きな壺を作る異色ゲーム『陶芸マスター』。お手軽操作で自由自在に壺を作り、販売するシミュレーションゲームだが、難易度は極めて低い。なぜ人は作業的なゲームで延々と楽しめるのか。そこにはSNS時代ならではの承認欲求が関係している。


人はなぜクリエイティブな行為を好むのか。答えは人それぞれだが、こと自分についていえば「他人から褒められたいから」だ。ゲーム専門学校の教材用にUnityでミニゲームを作りはじめてから、その想いが改めて強くなった。ミニゲームを作るだけでなく、授業で学生に使わせたり、プレイ動画を録画してTwitterに投稿するのが楽しいのだ。学生が遊んでいる姿を観たり、視聴回数が伸びるのをみるだけで、どこか認められた気持ちになる。一人で作り続けるだけでは、すぐに飽きてしまっただろう。

今回レビューする『陶芸マスター』も、SNS時代ならではのゲームだ。陶芸家となって任意の壺を作り、自分のサロンで販売するシミュレーションゲームだが、話はそれだけに留まらない。少なくないユーザーがスクリーンショットを撮ってTwitterに投稿しているのだ。このことはハッシュタグ「#陶芸マスター」で検索するとわかるだろう。見事な柄のツボからヘタウマなものまで、さまざまな種類がある。まだ早期アクセスのゲームながら、『Minecraft』などと同じ現象が起きつつあるのだ。

陶芸家になって承認欲求を満たそう

ゲームの展開はシンプルだ。はじめに粘土を選んでろくろを回し、壺の外見を作る。続いて素焼きを行い、絵付けを行う。最後に本焼きをすれば完成だ。土を練ったり、乾燥させたりといった手間は必要なく、わずか十数分で自分だけの作品が完成する。完成した作品はショールームで販売しよう。平均的な完成度の作品であれば、そこそこのお客さんから注文が集まり、陶芸館の経営が傾く心配はない。こうして得た資金で、新しい粘土や柄などを購入すれば、より自由度の高い陶芸が可能になっていく。

このようにゲームをプレイしながら、どんどん選択可能な行動が増えていくのは、典型的なインフレーションのシステムだ。最初からすべての行動を開示することなく、選択肢を小出しにしていくことで、ゲームに無理なく熱中させることができる。グラフィックも秀逸で、壺の質感などもなかなかのもの。中でも秀逸なのが絵付けで、あらかじめ用意された図形や記号を組み合わせるだけでなく、自分で絵柄を作成することもできる。イラストや写真をとりこんで絵柄に使用することも可能だ。

もっとも、記事執筆時点(2019年12月1日)ではアーリーアクセス版に留まっているため、円柱状の作品しか作ることができない。一定の高さの作品しか作れないため、皿が作れないのも難点だ。もっとも、公式Twitterではアップデートで把手つきのカップや埴輪などが作成可能になることを示唆している。これにより、さらに自由度が上がりそうだ。個人的にはアニメ風のイラストが描かれた大皿などが作れれば、よりSNSで盛りあがるのではないかと思う。

(1)粘土を選んでろくろを回し、壺の外見を作る

(2)窯に入れて素焼きをする。マウス操作による温度調整が完成度を左右する

(3)任意の柄をつけたり、釉薬を塗ったりして、本焼きをすれば完成だ

(4)完成した作品はショールームで販売できる

ルドスではなくパイディア重視の粘土遊びゲーム

フランスの哲学者ロジェ・カイヨワは著書『遊びと人間』で、人間の遊びを「アゴン(競争)・アレア(運)・ミミクリ(模倣)・イリンクス(眩暈)」に分類した。また、その上で個々の遊びをルールに縛られる「ルドス」と、ルールから逸脱しようとする「パイディア」に整理した。この分類を当てはめると、本作は陶芸家ごっこが楽しめる「ミミクリ」の中でも、自由な陶芸が楽しめる「パイディア」の遊びだ。実際、どんな作品でも一定の評価が得られる本作は、粘土遊びに近いといえる。

もっとも、本作を開発したAZGamesは中国の個人ディベロッパーだ。陶磁器の本場であり、中国風の絵柄が多数用意されるなど、文化的な深みが感じられるタイトルになっている。一方でソウル中央大学教授の魏晶玄氏が指摘したように、日米欧はプロセス志向、中韓は結果志向のゲームデザインを好むとされる(※)。そのためルドスではなく、パイディアを重視する本作のゲームデザインは、より日本受けする要素を含んでいるのだ。こうしたゲームが中国から登場してきたことに驚きを禁じ得ない。

その上で本作がさらに発展する可能性を残しているとすれば、どこだろうか。それは入力インターフェースの発展だ。モニターを見ながらマウスを操作してろくろを回す現状のシステムは、今ひとつ直感的ではない。それよりもVR空間内で、手で触るようにして形を整えたいというプレイヤーも多いのではないだろうか(少なくとも筆者はそうだ)。VRであれば完成した壺を手に取るようにして、360度鑑賞することも自由自在だ。今後のアップデートを期待したい。

公式Twitterで掲載されたアップデート予告。左右非対称な作品が作れるようだ https://twitter.com/AZGameProjects/status/1199715347642736646/photo/1

<参考・参照元>
4Gamer.net [GDC07#16]欧米産MMORPGの中で,なぜWoWだけがアジアでも成功しているのか? 魏 晶玄氏が語る,西洋と東洋におけるゲーマーの違い

■関連リンク
Steam『陶芸マスター』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1160490/_/
AZGames Twitter公式ページ
https://twitter.com/AZGameProjects
AZGames bilibili動画公式ページ
https://space.bilibili.com/76742670/
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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