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『Never Alone (Kisima Ingitchuna) 』ゲームが語り継ぐ少数民族の記憶【インディーゲームレビュー 第58回】

ゲームはインタラクティブなメディアだからこそ、遊び手に強い印象を残す。イヌピアットの伝承をベースとしたアクションゲーム『Never Alone (Kisima Ingitchuna) 』もまた、ゲームという形式を用いた優れたドキュメンタリーだった。


ゲームジャムを通して少数民族の文化理解を促進する

ゲームを作るという行為は、ことゲーム開発を学ぶ学生レベルでは、もはや特別な行為ではなくなっている。クリエイターが集まって数十時間でゲームを作る「ゲームジャム」も、2010年前後は完成させることすら危うかったが、今では大半のチームが普通に遊べるゲームを作り上げられるほどになった。それとともにゲームジャムも細分化が進んでおり、自分たちのルーツやアイデンティティを問い直すものすら出始めている。

2018年2月21日から25日までフィンランドのウツヨキ市で開催された「サーミゲームジャム」は好例で、マイナス30度の極寒の地で、地元の学生やプロの開発者など44名が参加した。ポイントは本ゲームジャムがスカンジナビア半島北部の先住民族、サーミ人の文化をテーマに取り上げたことだ。関係者のヒアリングを通して12種類のテーマのうち、2種類を内包することを条件に、6本のゲームが制作された。

この背景には主催者の女性2名がサーミ人にルーツを持つことがあった。トナカイの遊牧民として知られるサーミ人は、かつては「ラップ人」と呼ばれ、差別の対象となっていた。こうした社会背景から、主催者らはゲームの国際学会DiGRA2019で「開催に際してセンシティブな部分もあった」という。それでも、ゲーム制作を通して文化や風習を理解し、未来に向けて発信できたのは価値があることだったと語った。(※1)


完成したゲームはこちらからダウンロードしてプレイできる

イヌピアットの少女と北極狐が主人公

今回レビューする『Never Alone (Kisima Ingitchuna) 』もまた、サーミゲームジャムと同じ文脈を持つ作品だ。ゲームは主人公の少女と北極狐の操作を要所で切り替えながら、さまざまなパズルを解いたり、敵から逃れたりしながら進めていくパズルアドベンチャーで、2人での協力プレイにも対応している。ゲームは3~4時間程度で終了し、終盤は難易度が急激に上昇するものの、総じてサクサクと進めていける。

サーミゲームジャムと同様に、本作もまた「イヌピアット」として知られるアラスカの原住民に伝わる伝承「ユニプカク」を題材としている。タイトルの「Kisima Ingitchuna」は現地語で「Never Alone」、すなわち「絶対に孤独ではない」ことを意味している。もっとも、これは少女と北極狐だけでなく、自然界全体との関係性を意味しており、このことがゲームを通して理解できる仕組みだ。

少女の目的は荒れ狂う吹雪の原因をつきとめることだ。そのためフィールドには絶えず強風が吹き荒れており、地面にしがみついて吹き飛ばされることから堪えたり、時には強風に煽られてジャンプしたりしながら、ステージを進んでいく。また、狩猟用の飛び武具「ボーラ」を使って攻撃したり、障害物を壊したりもできる。これに対して北極狐は壁を駆け上がれるほか、ステージ上の精霊を具現化し、働きかけられる。

このように少女と北極狐の異なる能力を組み合わせて、さまざまな仕掛けをクリアし、ゲームを進めていくのだ。後半ではリフトをジャンプで乗り継いだり、襲い来る北極熊から逃げ回ったりと、アクション性の高いシーンも登場する。ただ、難易度の上昇が単調で、理不尽に感じられるシーンも少なくない。できれば1人ではなく2人、それもアクションゲームが得意な友人や親子で遊ぶことをお勧めする。




ゲーム制作が調べ物学習で活用される未来に向けて

本作のもう一つの特徴は、開発にイヌピアットのコミュニティが協力していることだ。ステージに隠されたフクロウを見つけると、イヌピアットの文化を解説したインタビューや特典映像などが見られる。映像を通して自然と共存して生きるイヌピアットの文化や、アニミズム的な宗教観などが理解できるだろう。インタビューの話題がゲーム内容とリンクしているシーンもあり、より深くゲームが楽しめる。

本作の特性を生かして、実際の授業に活用する研究も行われた。メルボルン大学のアレックス・ビカルジャ氏は中学校の英語教師15名の協力を得て、13~14歳の生徒300名に本作をプレイしてもらい、ヒアリングを実施した。その結果、教師からポジティブな回答が得られたという。オーストラリアの子供たちがイヌピアットの文化を理解する上で、ゲームの体験的な特徴がうまく生きたというわけだ。(※2)

ゲーム開発の間口が広がるにつれて、本作のように地域や民族の文化・伝承をゲームに取り込む例は、さらに広がっていくと推測される。日本で言うなら、アイヌや琉球民族などをテーマにしたゲームが、学校の「調べ物学習」の時間などで創られるようになるのも、それほど遠い未来ではないだろう。「ゲームを創りながら、遊ぶことで理解する」時代の到来を、本作は予見しているように感じられる。



※1 DiGRA2019口頭発表「Sami Game Jam – Learning, Exploring, Reflecting and Sharing Indigenous Culture through Game Jamming」より
※2 DiGRA2019口頭発表「Negotiating Pedagogy and Play in the Games-as-text English classroom」より

© 2016 E-Line Media.

■関連リンク
Steam『Never Alone (Kisima Ingitchuna) 』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/295790/Never_Alone_Kisima_Ingitchuna/
『Never Alone (Kisima Ingitchuna) 』公式サイト
http://neveralonegame.com/
パブリッシャー「E-Line Media」公式サイト
https://elinemedia.com/
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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