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『Baba Is You』多様なダイナミクスを生み出す優れたメカニクス【インディーゲームレビュー 第56回】

フィンランドの学生が作ったパズルゲーム『Baba Is You』が世界のインディーシーンを席巻している。シンプルなメカニクスで多様なダイナミクスを生み出すという、ゲームデザインの原点に立ち返った良作だ。


メカニクスはシンプルに、ダイナミクスは多彩に……

ルール(=メカニクス)がシンプルで、多彩な展開(=ダイナミクス)が生まれる……名作ゲームの条件だ。ビリヤードは好例で、キューでボールを弾くだけで、ボール同士の相互作用が生まれ、無限の展開が生まれる。ただし、展開を広げるためにルールが複雑になるのはいただけない。ルールの学習コストが高まり、初心者を排除してしまうからだ。今回紹介する『Baba Is You』もまた、この命題を高いレベルでクリアしている、良質なパズルゲームになっている。

ゲームの目的は自キャラ(Baba)を操作して、ステージごとに決められた条件をクリアしていくこと。条件は英単語のブロックの並びで記述されており、「FLAG」「IS」「WIN」なら自キャラを旗まで移動させればクリアとなる。ちなみに自キャラも「BABA」「IS」「YOU」と記述されており、これは白いぶよぶよとした生き物を上下左右に動かせることを意味している。その上で本作のキモは、ステージに点在する英単語のブロックを自キャラで押して、文章を自由に書き換えられる点にある。

例を挙げれば、「WALL」「IS」「STOP」と並べられたブロックの「STOP」を動かして並びを崩してみよう。すると、それまで障害物扱いだった壁をすり抜けられるようになる。それどころか「FLAG」「IS」「WIN」を「WALL」「IS」「WIN」に書き換えると、壁に衝突するだけでクリアできるようになるのだ。同じように「BABA」「IS」「YOU」を書き換えて、岩や壁を自キャラにすることもできる。このように本作では世界のルールを書き換えることで、ゴールを目指していくのだ。


ゲームの概要

(1)「PILLAR(石柱)」「IS」「PUSH」、すなわち石柱は押すことができる。しかし、「STAR」「IS」「DEFEAT(敗北)」の関係から、そのまま旗に突進すると死んでしまう

(2)そこでPILLAR(石柱)を一列に並べ、FLAGを囲むSTARの中に押しこんで、FLAGに到達させる

(3)その後「BABA」「IS」「YOU」を「PILLAR」「IS」「YOU」に書き換えれば、石柱が旗に重なっているので、その時点でクリアだ

世界の関係性を書き換えるメタゲーム

このように本作の世界は英文法の第2文型「SVC」で記述されている。そして、この関係性を書き換える行為自体をパズルに転化している。これにより本作では、「S=主語」と「C=補語」の関係性を増やすだけで、さまざまな展開が生まれていく。文字通り、シンプルなメカニクスで多彩なダイナミクスがみられるのだ。そのため、ステージによっては複数の解法が選択できる。パズルに行き詰まったとき、さまざまな組み合わせを試していくことで、思わぬ打開策が導き出せるだろう。

また、実際の英文法と異なり、補語に動詞が含まれる点も重要だ。そのためステージが進むにつれて「PUSH(押す)」「SINK(壊す)」「OPEN(開ける)」など、さまざまな動詞ブロックが登場し、展開の多様性が増していく。そして、このことがプレイヤーをより深みにはまらせていく要素になるのだ。にもかかわらず、プレイヤーのやることはブロックを並べて文章を作るだけなので、初心者でもすぐに遊び始められる。ターンベースで進むため、じっくり遊べる点もうれしい。

本作はまた、ゲームを通して現実を、ちょっと違った角度で見るための視座も与えてくれる。『Expand』のレビューで論じたように、ゲームは「自分」と「世界」と、両者の関係性で成立している。一方で『環願 Devotion』で論じたように、ゲームは現実の写し絵的な性格を有する。現実もゲームと同じように「自分」と「世界」と、その関係性で記述されるからだ。つまり、この「関係性」に着目した本作は、メタゲーム的な性格を備えている。ここが世界中で高く評価されているポイントだと言える。

ゲームジャムから一気に世界のスターダムに

以下は余談だが、本作が誕生したきっかけは、2017年に開催された48時間でゲームを作るハッカソンイベント「Nordic Game Jam 2017」だった。このジャムで本作をほぼ一人で開発したArvi Teikari氏は当時、ヘルシンキ大学の学生だった。実際にゲームジャム版をプレイすると、ゲームの骨格がSteam版とまったく変化していないことがわかるだろう。今時感のあるグラフィックも、本作の魅力を引き立てる重要な要素になっていることがわかる。

「Nordic Game Jam 2017」バージョン

そして、このジャムで受賞したことがきっかけで、本作は翌年の「Independent Games Festival(IGF) 2018」で、ゲームデザイン部門と学生ゲーム部門をダブル受賞する。その後、2019年春に正式リリースされると世界中から絶賛されることとなった。本作をはじめ、ゲームジャムによって生まれたインディーゲームのヒット作は数多い。過去にレビューした『Minit』『Forager』などは、その好例だ。ゲームジャムのような自由なモノづくりの空間がいかに重要か、本作は改めて示している。

「IGF 2018」でBest Student Gameを受賞したArvi Teikari氏

■関連リンク
Steam『Baba Is You』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/736260/Baba_Is_You/
『Baba Is You』ゲームジャム版
https://hempuli.itch.io/baba-is-you
Arvi Teikari氏 個人サイト
http://www.hempuli.com/
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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